地域イノベーションによる地域創生と地方から生じる新たな形の経済現象に関する研究

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

〈地域イノベーション学研究科〉西村 訓弘(教授)

 「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)が全国の896市区町村が少子化による人口減少で将来の存続が危ぶまれる消滅可能性都市と定義し,地方を悲観視していますが,「地方が一方向で衰退する見方は正しいのか」,これが,私の研究を行う上での中心的な問いです。私は,三重県をフィールドとする地域社会に関する研究を10年以上続けており,三重県での事象観察からは,「自治体の消滅可能性」と「地域活力の低下」には相関がないとの印象を持っています。三重県には南北に長い地勢に起因する南北格差が存在し,北部が工業中心,南部が一次産業中心の産業構成であり,人口は北部に偏り,一人当たり市町民所得も北部が南部の2倍以上となり,南部では急速な人口減少と高齢化が進行している現実があります。しかしながら,南部の自治体が消滅する可能性が強く感じられる一方で,地域内を詳細に調査すると,過疎化が著しく進行した地域でも,地域に定着し,力強く事業を行う事業者が存在していることを私は確認しています。

 また,三重県南部など,人口減少と高齢化が急速に進んだ地域でも新たな可能性があるとの認識を基に,いくつかの事業を立ち上げることも行いました。一つの事例では,若手トマト栽培農家と中核的な製造業の連携を促し,工場に隣接する農地を纏め上げ,IoT技術IoTとは「Internet of Things」の略で,日本語では「モノのインターネット」と訳されている。現実世界の物理的なモノに通信機能を搭載して,インターネットに接続・連携させる技術のこと。を活用した最先端の太陽光利用型植物工場を設置することで,本邦最高レベルの高収益農業(反収1,500万円)を実現しました(写真1)。この取り組みでは,荒廃した森林から伐採した間伐材由来の木材チップをエネルギー源として蒸気を製造し,この蒸気を用いて食用油を搾油した後,従来は廃棄していた熱湯を,上述の太陽光利用型植物工場で利用するという,エネルギー・カスケードによる全量利用を実現し,持続可能な工業と農業の地域内連携システム(持続可能社会に適した新たな農業モデル)を構築したことにも意義があります。

  • 持続可能社会に適した新たな農業モデル

    【写真1】持続可能社会に適した新たな農業モデル

 別の事例では,伊勢神宮前で100年以上の歴史を持つ大衆食堂において,機械学習(AI)を駆使して膨大な情報群から顧客予想につながる因子を見出し,予測精度を研ぎ澄ますことで,予測した顧客数に基づく食材仕入れと従業員配置を行う効率経営を実現し,売上げを5倍以上,利益率を15倍以上へと格段に高めることができました。このことは,生産性が低いことで労働環境が悪かった地域の大衆食堂を,収益性が高く,若者たちが生き生き働くことができる職場に変化させる効果があり,地域食材を適正な価格で買い入れることで地域の一次産業者を支えること,また,適正な量の仕入れと仕込みによる食品廃棄量の低減にもつながりました。以上の2つの事例は,本学地域イノベーション学研究科博士課程に社会人入学した地域の社長たちが実現した取り組みになります。

 私の研究では,人口減少と高齢化が進み自治体の消滅が危惧される地域でも,固定概念を排除した地域内での最適な連携を組み上げることで飛躍的に収益性が高い事業が実現できることを示しました。本研究を通して,人口減少に伴い衰退が懸念される地域で生じているこれらの現象が,一種の「リープフロッグ現象(馬跳び型発展)」に分類される事象ではないかと私は考えています。リープフロッグ現象とは,社会インフラが未整備の地域で先進地域が経験した進展を飛び越えて新しいビジネスが一気に広まることであり,先進国では既存事業者との摩擦,法律の修正などで新ビジネスの浸透には時間が必要になるが,新興国では社会インフラ,法整備が不十分であることから,電子決済,タクシー配車サービスなどの新ビジネスが急速に浸透する経済現象とされています。

 高度経済成長,バブル景気の崩壊,その後の経済低迷の間に進行した日本における地方と都市部の格差は,上述の新興国と先進国との関係性に似ています。すなわち,『地方は過疎化による疲弊が認められるが,一方では固定概念・人的なしがらみなどの歯止めが消失し,新しい取り組みを行いやすい環境が,社会が比較的安定している都市部よりも整っている』とも言えます。社会基盤が十分に整備され,経済が成長期から成熟期に差し掛かった日本が,それまでの仕組み,しがらみを取り払い,新たな時代に適応して,これまでに蓄積したインフラ,技術,文化,人材などの社会資源を最適融合(組み直す)ことで,新たな成長が起こると,私は推察しており,そのような現象は,都市部を飛び越して,疲弊した地域から先行して生じてくると確認しています。そのような認識に立ち,三重県南部を中心に起こっている(起こした)事象を,私は「高度経済成長期を達成した先進国での経済成熟後に起こるリープフロッグ型発展(成熟経済下でのリープフロッグ現象)」と定義し(図1),社会基盤が十分に整った日本で起こるリープフロッグ現象が与える地域社会と国家への経済的インパクトについて研究を続けています。

成熟経済下でのリープフロッグ現象に関する概念図
【図1】成熟経済下でのリープフロッグ現象に関する概念図

TOP