三重大学演習林の取り組み

  • 15 陸の豊かさも守ろう

1.三重大学演習林の植生と生物多様性

 三重大学演習林は,三重県のほぼ中央を貫流して伊勢湾に注ぐ一級河川「雲出川」の源流を構成する森林です。江戸時代,藤堂氏が治める津藩の藩有林であったこの区域が明治維新後に国有となり,1949年に三重大学の附属演習林となってからは林学に関する研究と学生の森林演習を行うことを目的として,現在に至るまで維持管理されてきました。

 総面積457haの演習林内では,紀伊半島三重県中部の森林が保護・保全されており,天然生林と人工林の割合はおよそ6:4(全国の割合と同程度)です。

 天然生林は大部分がモミ,ツガなどの針葉樹とケヤキ,トチノキ,ミズナラ,ヒメシャラ,ミズメ,ブナ,カエデなどの落葉広葉樹による針広混交林であり,紀伊半島北部の代表的な森林植生となっています。特に,太平洋型のブナとモミ・ツガで構成される天然生林は学術的に貴重であり,生物多様性を保持した重要な森林として保護対象としています。人工林の大部分はスギまたはヒノキの一斉林注1)で,部分的にアカマツ,カラマツ,クヌギの植栽が試みられています。また,一部には1810年植栽の樹齢200年を越えるスギの林分もあります(写真1)。このような環境で多くの動物が生息しており,クマタカ,コノハズク,ヤマネ,ニホンカモシカなど分布のうえから注目される動物の確認が記録されています。

 このように,多様な樹種によって構成され,豊かな生態系を育み,雲出川源流域の森林として多面的機能を発揮している演習林を保護・保全するために,近年新たに取り組んでいる事例を2つ紹介します。

  • 【写真1】1810年植栽のスギ人工林

    【写真1】1810年植栽のスギ人工林

2.天然生林におけるナラ枯れ調査と被害拡大防止の取り組み

 「ナラ枯れ」は,カシノナガキクイムシ(学名:Platypus quercivorus)がカビの一種である病原菌(通称「ナラ菌」(学名:Raffaelea quercivora))を伝播することによって起きる樹木の伝染病で,日本産ブナ科の全ての属で枯死が見られます。2010年に全国的に被害量がピークになったナラ枯れが,2017年夏,演習林内でも初めて確認されました(枯死したのはミズナラの古木)。ナラ枯れは,その地域の森林で被害が発生してから,3~5年で概ね収束すると言われており,その間の被害木数をできるだけ少なくすることが重要です。演習林ではすぐに現地調査を行い,ナラ枯れの被害状況の把握に努めると同時に,被害の拡大を防ぐため,専門分野の教員の指導を仰ぎながらペットボトルを使用したカシノナガキクイムシの捕獲トラップを被害木に設置しました(写真2)。今後は捕獲トラップの設置数を増やしたり,より有効な防除方法の試行を行うなどの対策によって,被害の流域全体への拡大を防ぎたいと考えています。

  • 【写真2】ペットボトルを使用した捕獲トラップ

    【写真2】ペットボトルを使用した捕獲トラップ

3.人工林における風倒被害木の有効利用の取り組み

 演習林には,1810年に植栽されたスギの人工林が存在しており,長期間に渡って定期的に生長量の計測が行われています。樹齢200年を超えるスギの生長量に関するデータは全国的にも貴重であり,この林分注2)は研究対象として大切に保護されていますが,近年の大型化する気象災害によって,毎年数本が枯損し,風倒被害木として伐採しなければならないことが続いています。

 演習林では2018年度から,この樹齢200年を超える貴重なスギを加工し演習林オリジナルの木製品として販売するプロジェクトを,三重県内の企業と共同で立ち上げました。木製品の販売によって,森林保全と木材利用の重要性を広くPRすると共に,利益の大部分を今後の演習林の保護・保全活動に役立てていきたいと考えています。

  • 【写真3】風倒被害木を利用した木材製品(割り箸)

    【写真3】風倒被害木を利用した木材製品(割り箸)

  • 皆伐跡地に一斉に植林して造った,単一の樹種の森林。単層林。
  • 樹木の種類・樹齢・生育状態などがほぼ一様で,隣接する森林とは明らかに区別がつく,ひとまとまりの森林。

〈大学院生物資源学研究科・生物資源学部〉渕上 佑樹(助教)

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