自治体の生物多様性保全施策への貢献

  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

<教育学部>平山 大輔(教授)

 三重県は、地域の生物多様性保全と持続的利用の基本計画である生物多様性地域戦略「みえ生物多様性推進プラン」を策定し、実行しています。
 これは生物多様性基本法に基づくもので、地域の生物多様性保全の推進に向けて、県民、事業者、NPO、行政などが協働して取り組むための総合的な指針となるものです。

 「みえ生物多様性推進プラン」(第1期)の始まりは平成24年でしたので、もう10年以上の取り組みになります。令和5年、第3期のプランが改訂され、令和6年から第4期(令和6年度~令和14年度)を迎えています。この第4期の「みえ生物多様性推進プラン」の策定に際して、筆者は、三重県自然環境保全審議会の自然環境部会長として携わりました。

 第3期の終わり(令和5年度)までに、自然環境保全に取り組む活動団体数の増加や、野生鳥獣による農林水産業被害額の減少など、一定の成果はありましたが、課題もまだまだ多いのが実状です。開発に伴う野生生物の生息地の破壊の進行、農山村地域での人口減少や高齢化による管理不足の里山などの増加、外来生物の増加等々、野生生物のおかれている状況は依然として厳しく、さらには、第3期プランに掲げていた、さまざまな主体が連携して社会全体で三重県の自然を支える仕組みづくりについても、道半ばです。

 この記事では、第4期プランの重要な柱の一つである「OECM」について紹介します。
 OECMとは、Other Effective area-based Conservation Measuresの頭文字をとったもので、既存の保護地域(国定公園など)以外で生物多様性保全に資する場所を保全する手法のことです。生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、生物多様性の損失を食い止め、反転させる「ネイチャーポジティブ」の実現に向けて、令和12年までに陸域と海域の30%以上を保全する「30 by 30」と呼ばれる目標が打ち出されましたが、OECMはそれを達成するための取り組みとなります。

 この30%という数値には一定の根拠があり、例えば、保護区域の面積を国土の30%にすると、維管束植物・脊椎動物種の相対絶滅リスクを70%減(現状より3割減)にする効果が見込めるという報告があります(Shiono et al. 2021)。現状、日本の保護区は陸域の20.5%、海域の13.3%をカバーしています。陸、海ともに、生物多様性保全を図る面積の増加が望まれます。

図1 紀伊長島鳥獣保護区(特別保護地区)陸でも海でも、生物多様性保全に資する面積の増加が課題

図1 紀伊長島鳥獣保護区(特別保護地区)
陸でも海でも、生物多様性保全に資する面積の増加が課題

 日本各地からの申請に基づき、生物多様性保全が図られている区域を環境省が「自然共生サイト」に認定し、認定区域のうち既存の保護区との重複を除いた区域がOECMとして国際的に登録されるという仕組みとなっています。令和6年8月現在、三重県内では、吉崎海岸自然共生サイト(申請者;四日市市・楠地区まちづくり検討委員会・NPO法人四日市ウミガメ保存会)、亀山里山公園(亀山市)、羽根の森(公益社団法人 大阪自然環境保全協会)、トヨタ三重宮川山林(トヨタ自動車株式会社)、自然学習園 ふるさとの森(いなべ市)の5か所が認定されています。
 このような取り組みが県内でさらに進むことで、ネイチャーポジティブの実現に近づくことを期待しています。

参考文献

  • Shiono, T., Kubota, Y., Kusumoto, B. (2021) Area-based conservation planning in Japan: The importance of OECMs in the post-2020 Global Biodiversity Framework. Global Ecology and Conservation 30: e01783. DOI: 10.1016/j.gecco.2021.e01783.
  • 三重県(2024)みえ生物多様性推進プラン(第4期)

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