持続可能な衣生活へ:綿クレープ肌着の着用による素材特性の変化

  • 12 つくる責任つかう責任

<教育学部 家政教育コース>横山 真智子(講師)

 皆さんは衣服を買うとき、どのような基準で選んでいますか。デザインやサイズ、値段、素材、手入れの仕方などでしょうか。ブランドや原産国でしょうか。この基準に「長く着用できるか」を加え、衣服を選択する生活者となるよう研究や教育実践をしています。

 近年、衣服の廃棄が問題となっています。メーカによる回収や素材のリサイクルなどが進められていますが、いくらリサイクルなど廃棄の問題に取り組んでも、捨てられる衣服の量が増えてしまってはうまく循環しません。そこで消費者に求められているのが「蛇口をしめる」こと。つまり、入手する段階で長くつかえるものを必要な分だけ購入する行動です。購入後も、素材にあった手入れの仕方を知っていれば洗濯による失敗がなく、衣服を快適に長く着用することができます。
 また、マイクロプラスチックの河川や海洋への流出の原因として、衣服から抜け落ちる合成繊維が関係しています。石油由来の合成繊維が広く普及するまでは、天然の植物繊維である綿や麻、動物繊維である絹や毛などが衣服の材料として使われていました。

衣服の選択について表示を見て考える様子

衣服の選択について表示を見て考える様子

 現在、天然繊維の中で最も衣服材料として利用されている材料は綿です。同じ綿でも糸の太さや撚(よ)り、織り方や編み方によって異なった特徴をもつ布になります。綿素材でよこ糸に強い撚(よ)りをかけて織られた布に「高島ちぢみ」があります。
 滋賀県湖西の伝統綿織物である高島ちぢみは、日本の盛夏に最適な肌着素材として、古くから愛用されてきました。よこ糸に強撚糸を用いた型押し加工を施し、凹凸を発現させる環境負荷の少ない素材で、近年はステテコの部屋着など、クールビズ素材として注目されています。

高島ちぢみ

高島ちぢみ

 本研究では、高島ちぢみの新品の肌着と、4から10年着用・洗濯を繰り返したものを比較しました。高島ちぢみは、着用前でもよこ糸方向に伸びやすいのですが、長期間着用・洗濯することで、さらに伸びやすく、柔らかく、滑らかな着心地が得られるようになることが分かりました。

図1 洗濯・着用による力学特性・表面特性の変化

図1 洗濯・着用による力学特性・表面特性の変化

引用:日本繊維機械学会 第74回年次大会発表資料

 図1は、洗濯・着用による力学特性・表面特性の変化を示したものです。縦軸に力学特性・表面特性の項目を示し、横軸は各特性値を示します。太線は、婦人服地280種類の平均値と標準偏差で規格化された値です。
 試料T1の洗濯前のものをT1(0)、20回洗濯後T1(20)、古着で推定120回洗濯のものT1W(120)、古着で推定300回洗濯のものT1W(300)として、記号で示しています。
 着用前の布は、婦人服地と比較して、よこ糸方向の伸び率(EMT2)が顕著に大きい傾向が示されます。着用後はさらにEMTが増加、曲げ特性(B、2HB)・せん断特性(G、2HG、2HG5)の低下、摩擦係数の変動(MMD)の減少がみられます。
 これらの特性変化から、長期間着用により伸びやすく、柔らかく、滑らかな着心地が得られると判断されます。

図2 洗濯・着用による曲げ剛性(B1)の変化

図2 洗濯・着用による曲げ剛性(B1)の変化

引用:YOKOYAMA Machiko, SUKIGARA Sachiko, YOKURA Hiroko, Changes in Physical and Geometrical Properties of Cotton Crepe Fabrics Taken from Worn Undershirts, Journal of Textile Engineering, 68 (3), 41-47, 2022

 図2に、たて糸方向の曲げ剛性(B1)と洗濯回数の関係を示します。4種類の肌着について、洗濯1、3、5、10、15、20回の結果を白抜きで、古着(着用・洗濯)の結果を塗りつぶしで示しています。たて糸方向の曲げ剛性(B1)は繰り返し洗濯により減少し、着用後の古着は推定洗濯回数に比べてB1値が減少して曲げが柔らかくなっています。
 特に初期に曲げがたい試料T1やT2は、洗濯回数が増えるにつれて曲げ剛性を示す値が低くなっています。もともと柔らかい試料は洗濯による影響は小さいですが、着用後の古着の値には減少傾向がみられます。
 一方で、布の表面凹凸(しぼ)の着用による変化は少なく、しぼの凹凸の形状は維持されていると考えられました。このように着用・洗濯を繰り返すことで着心地がよくなる高島ちぢみの特徴が明らかとなりました。丈夫で長もちし、着心地もよくなっていくのでしたら、夏用の衣料として積極的に選びたくなりますね。

 繊維製品の加工や性能の改善により、わたしたちは用途にあわせて快適な衣服を選択できるようになりました。衣生活を持続可能なものにするために、改めて天然繊維の機能を再確認し、サステナブルファッションを意識して自分ができることから行動に移してみてください。

【参考URL】
高島晒協業組合
環境省_サステナブルファッション (env.go.jp)

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