6環境・SDGs研究
コロナ禍と出生率に関する研究
- 3 すべての人に健康と福祉を
- 5 ジェンダー平等を実現しよう
- 8 働きがいも経済成長も
- 10 人や国の不平等をなくそう
- 17 パートナーシップで目標を達成しよう
<医学系研究科 公衆衛生・産業医学・実地疫学分野>池田 若葉(研究科内講師)
日本の総人口は、平成20年の1億2,800万人をピークに年々減少しているとともに、高齢化が急速に進展しています。そして、人口減少・高齢化がわが国にとって最大の課題である中、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大という危機が今後の出生率にどのような影響を与えるのか、議論がなされています。
これまでの研究によると、社会的危機は出生率を増加させるという報告がある一方、出生に負の影響をおよぼすという報告もあります。果たしてわが国ではどのような傾向なのでしょうか。またその要因は何なのでしょうか。
現在進めている研究では、日本における新型コロナウイルス感染症拡大が出生率におよぼす影響とその要因について調べ、子育て世代が安心して出産できる社会経済的支援について検討しています。具体的には、私たちは子育て支援の研究として、これまであまり使われてこなかった政府の統計資料を利用して、新型コロナウイルス感染症拡大が日本の出生率にどのような影響を与えたかを調べています。図1は、第1例目の新型コロナウイルスの感染症例が報告された令和2年の1月から12月における新型コロナウイルス感染者数の推移と、それに関する国家の感染予防措置を示しています。また、図2は新型コロナウイルスの新規患者数が全国で最も多い東京と、それ以外の地方都市として三重県を例に平成30年、令和元年および令和2年の妊娠届出数の比較をしたものです。通常、妊娠したことを役所に届け出るのは妊娠してから2か月後くらいです。よって、新型コロナウイルスの感染が広がり、不安が高まった3月頃に妊娠した人たちは、5月頃に妊娠を届け出ることになります。図2を見ると、感染者が三重県よりもはるかに多かった東京都の5月の妊娠届出数は大きく減少していることが分かります。これにより、新型コロナウイルスの感染拡大やそれによる社会不安が、出生数の減少に影響していることが推測されます。
しかしこれまでの研究は、既存データのみの分析から検討したものであり、子育て世代の心理社会要因などその他の詳細な背景は十分検討ができていません。引き続き必要データを収集して分析を行うとともに、今後はインタビュー調査などをして子育て世代の人たちの生の声を聞き、わが国における新型コロナウイルス感染症拡大とそれに伴う心理社会変化が出生率にどのような影響を与えているのかをさらに検討していきます。
本研究の成果は、新型コロナウイルスだけでなく、新たな感染症の発生や自然災害など、急激に社会環境が変化した時の対応にも貢献できることが期待できます。わが国における子育て世代が安心して出産できる社会経済的支援について検討していきます。
参考文献
- 1) 池田若葉、山崎由花、稲葉裕.日本における新型コロナウイルス感染症拡大が出生率にもたらす影響についての研究.同志社大学赤ちゃん学研究センター紀要BABLAB. No.5:p33-34、2021年