海洋環境と漁獲量変動の関連

  • 14 海の豊かさを守ろう

<生物資源学研究科 共生環境学専攻>山田 二久次(准教授)

 近年、人為起源のCO2放出量増大から地球温暖化への関心が高まっています。海面水温も上昇傾向にあり、日本の近海は高温化している世界有数の海域の一つです。私は海洋物理、つまり海の流れや水温等の物理的な環境を専門としています。以下に、私が担当している授業や取り組んでいる研究の一部を紹介します。

 一般的に、海中は電磁波(光や電波など)を通しにくい性質があるため、人工衛星などを用いたリモートセンシングでは海の表面近くの情報しか得られません。そのため、海洋内部に関するデータ取得は、現在でも実際に船などで海に行き、機器などで直接測定するかサンプルを取得後、研究室などで分析する必要があります。本学では練習船勢水丸を所有しており、実際に現場に出かけ、海の状態を観測することができます。私の担当している授業では、教室での講義だけでなく、海洋観測の体験を行う実習も含まれています。私だけでなく多くの教員が教育や研究に勢水丸を利用しています。

勢水丸でのCTD観測の様子(R5.11.14)

 三重県で思い浮かべるものの一つに、豊富な水産物を挙げる方も多いと思います。上記で海水温の上昇に触れましたが、近年これまで獲れていた魚が獲れなくなったり、逆に大量に獲れたり、これまで獲れなかった魚が獲れるようになったりと海の異変が指摘されており、三重県でも同様の現象が報告されています。海の異変の原因の一つに日本周辺の海水温の上昇が考えられており、海洋環境の変化は私たちの生活にも影響を与えます。

 海洋環境の変化と三重県周辺の漁獲量の関連について研究を行っています。一例として、三重県のブリ漁獲量に注目しています。ブリは三重県南部地域の主要漁獲物の一つであり、尾鷲市では「市の魚」に指定されています。紀伊半島南部のブリの漁獲量は年によって大きく異なることから、環境変動と漁獲量の関係が以前から注目されてきました。特に、日本南岸を流れる黒潮は紀伊半島の沖で大きく離岸、蛇行する大蛇行流路の存在が知られており、ブリの漁獲量変動と黒潮流路の変動や黒潮から分かれて沿岸に接近する暖水との関係が議論されてきました。それ以外にも、気象変動や日本近海の海水温、イワシなど他魚種の漁獲量、などのさまざまな要因が三重県のブリの漁獲量の変動に影響を与えることが考えられます。そこで、関連しそうなデータを網羅的に収集し、近年注目されている機械学習の手法を用いて関連性を明らかにしようと試みています。この図は三重県のブリ類の漁獲量と環境データから見積もった漁獲量の時系列です。環境データから見積もった漁獲量でも実際の漁獲量変動を概ね再現できていることが分かります。現在でも研究に取り組んでおり、さらにどの程度予測可能かを検討しています。

図 1971年から2018年までの三重県のブリ類漁獲量(太線)とMallowsのCpを基準としたLASSO(点線)、Adaptive LASSO(破線)、線形重回帰分析(細線)で見積もった同推定漁獲量の時系列(山田ら,2022)

参考文献

  • 山田二久次・大木里夏・久野正博・吉田彰・万田敦昌(2022)スパースモデリングによる三重県のブリ類漁獲量予測モデルの改良, 国際漁業研究, 20, 1-18.

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