6環境・SDGs研究
自作型IoTセンサを活用して、薬に頼らないハウスの害虫対策
- 8 働きがいも経済成長も
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 11 住み続けられるまちづくりを
- 12 つくる責任つかう責任
<地域イノベーション学研究科 地域イノベーション学専攻>野中 章久(教授)
野菜などのハウス栽培は、環境を制御できるため、高品質なものを長く収穫できるといった経営上のメリットがあります。一方で、温度や湿度が高くなりがちであるため、病気や害虫の被害が出やすい傾向にあります。一般的には殺虫剤や殺菌剤を散布して、病気や害虫の対策としますが、薬剤費がかかるだけでなく、環境への負荷もかかることになるため、出来るだけ薬剤散布を抑える努力をする必要があります。このとき、ハウス内の温度や湿度といった値の計測、傾向の分析を通じて、病気や害虫の発生を予測できるようになるならば、大きな進歩となります。
ハウスの温度や湿度の計測は、古くからさまざまな機器が利用されてきましたが、日本で一般的な空調設備のない簡易型のビニールハウスはあまり利用されていません。これはそれらの機器が経営的にコストが高すぎると判断されることが多いためと言えます。そこで、私たちの研究室では、市販の学習用キットを流用した自作型IoTセンサを活用するシステムを作成しています。このシステムを使って、ハウス内の温度、湿度、CO₂濃度、土壌水分などを計測、蓄積して、害虫の発生との関係を明らかにする研究に取り組んでいます。この研究は、タイタンビカスというエディブルフラワーを栽培している津市の赤塚植物園と共同で実施しており、同社のハウスにて継続的に試験を重ねています。蓄積したデータは学外のデータサイエンティストと共同して分析しています。害虫の発生予測は、積算温度を利用しますが、同社のデータから、苗の定植時に幼虫が持ち込まれていることを示唆する発生パターンが確認されています。越冬した卵からの発生は積算温度によって正確に予測できますが、それ以外の害虫の侵入による被害予測が正確にできるようになれば、より効果的な防除が可能となり、結果として薬剤の節約が可能となります。
私たちの研究室では、このような効果的な防除につながるデータ活用法の研究に加え、新規参入者などの、ハウス栽培に不慣れな人に対して病気や害虫発生に関する注意を喚起するシステムを生成AIを利用して開発しています。生成AIは文書データや数値データをフレキシブルに参照・学習できますので、対象となる作物の栽培マニュアルや病害虫に関する情報を読み込ませたうえで、ハウスに設置したセンサデータを流し込むことによって、作業者に害虫や病気の発生に関する注意を喚起し、また対策を示すというシステムです。このようなシステムが実用化され、また効果を上げることができれば、薬剤散布量の削減だけでなく、ハウス当たりの生産出荷量を増やせますし、収益拡大にもつながります。
実験を重ねているハウス
設置したセンサ(温湿度計と土壌温度計)
タイタンビカス