さまざまな社会課題に取り組むソーシャルビジネスに関する研究

  • 10 人や国の不平等をなくそう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

<人文学部/地域イノベーション学研究科>洪 性旭(准教授)

 私たちの生活に必要なさまざまなモノやサービスの多くは、政府や民間市場から供給されています。一方で、政府や市場からは十分に提供されない社会的ニーズやさまざまな社会課題などの空白については、以前から存在した社会活動団体や財団などの民間非営利組織が取り組んでおり、これらの組織を「サードセクター」と呼びます。ソーシャルビジネス(社会的企業)はこのサードセクターの新しい事業体で、収益事業を行いながら、主な目的は社会的ニーズの充足や社会課題の解決とする民間事業組織のことを指します。よりシンプルに言うと、事業性と社会性を同時に追求する収益事業またはその事業組織を指す言葉、と定義することもできます。

 どんな企業も社会の中で一定の役割を担っていると言えますが、「利益の一定割合以上を社会貢献に使う」または「社会的に不利な立場に置かれた人々を一定割合以上雇用する」といった客観的な基準を設けることもできます。ヨーロッパにはこのような共通の定義を作る動きがあり、ソーシャルビジネスの法律を制定して認証制度を運用している国々もあります。日本はまだソーシャルビジネスを制度化していませんが、地方自治体レベルで独自にソーシャルビジネスを定義し、支援制度を設けるケースがあります。

 例えば、ふるさと納税で寄付をしたとき、寄付金の使い道の設定にはさまざまな可能性があります。岐阜県飛騨市では、自治体独自の「ソーシャルビジネス」支援制度を導入し、ふるさと納税の使い道として「ソーシャルビジネスの支援」を選択できる先駆的な仕組みを作り、成功例を生み出しています。

 飛騨市では、地域課題を解決する事業計画を提案した事業者を審査し、ソーシャルビジネスとして認めた事業者を寄付者がふるさと納税の使い道の1つとして選択できるようにしています。地域外の事業者でも応募できますが、事業拠点は必ず同市内に置かなければなりません。同市によって選定されたソーシャルビジネスの1つとして、株式会社ネコリパブリック(本社:東京都台東区)の保護猫関連事業である「SAVE THE CAT HIDA」を挙げることができます。この事業は、当初令和4~8年の5年間で受入寄付金の目標額を5億円(うち半分の2.5億円を交付)に設定していましたが、わずか2年間で全額を達成しました。

SAVE THE CAT HIDA(株式会社ネコリパブリック)①(R5.9)

 同市の取り組みは、ふるさと納税にとどまらず日本の寄付全般にも示唆を与えます。成功するソーシャルビジネスは解決すべき社会課題(ニーズ)の特定と自社の提供できる価値、それによって期待される効果を的確に示すビジネスプランを持っています。習慣的に、惰性的に行われる寄付が、明確な道筋を分かりやすく提示するプロジェクトへの寄付に切り替わることが期待されます。

 私の運営する「ソーシャルビジネス論」ゼミでは、他にも学生たちとともに企業や自治体などへ訪問調査を行うことがあります。左は令和5年8月に訪問した「久遠チョコレート」(一般社団法人ラ・バルカグループ)、右は同年9月に訪問した飛騨市の「SAVE THE CAT HIDA」(株式会社ネコリパブリック)です。

  • 久遠チョコレート(一般社団法人ラ・バルカグループ)(R5.8)

  • SAVE THE CAT HIDA(株式会社ネコリパブリック)➁(R5.9)

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