7環境関連の取り組みと評価
三重大学演習林の取り組み
- 4 質の高い教育をみんなに
- 6 安全な水とトイレを世界中に
- 13 気候変動に具体的な対策を
- 14 海の豊かさを守ろう
- 15 陸の豊かさも守ろう
<生物資源学研究科 附属紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター附帯施設演習林>
鶴田 健二(准教授)
1.三重大学演習林の植生と生物多様性
本学の演習林は、三重県のほぼ中央を貫流して伊勢湾に注ぐ一級河川「雲出川」の源流に広がる森林です。総面積457 haの演習林では、天然生林と人工林の割合はおよそ6:4となっており、これは全国の割合と同程度となっています。天然生林の大部分はモミ、ツガなどの針葉樹とケヤキ、トチノキ、ミズナラ、ヒメシャラ、ミズメ、ブナ、カエデなどの落葉広葉樹による針広混交林であり、紀伊半島北部の代表的な森林植生です。特に、太平洋型のブナとモミ・ツガで構成される天然生林は学術的に貴重であり、生物多様性を保持した重要な森林として保護対象とされています(写真1)。人工林の大部分はスギまたはヒノキの一斉林注1)で、部分的にアカマツ、カラマツ、クヌギの植栽が試みられています。また、一部には1810年植栽の樹齢200年を越えるスギの林分注2)もあります(写真2)。このような環境で多くの動物が生息しており、クマタカ、コノハズク、ヤマネ、ニホンカモシカなどの希少な動物の確認が記録されています。
このように、演習林は多様な樹種によって構成され、豊かな生態系を育むとともに、雲出川の水源も担っています。ここでは、地域社会の課題や環境問題の解決に向けて、演習林で近年取り組んでいる事例を紹介します。
写真1 モミ・ツガの天然生林
写真2 1810年植栽のスギ人工林
注1) 皆伐跡地に一斉に植林して造った、単一の樹種の森林。単層林
注2) 樹木の種類・樹齢・生育状態などがほぼ一様で、隣接する森林とは明らかに区別がつく、ひとまとまりの森林
2.森林からの水供給量モニタリング
森林が有するさまざまな働きの一つに、水源涵養機能が挙げられます。これは、主に森林土壌が洪水や渇水を緩和し、下流域へ安定して水を供給する働きのことです。近年、日本では大雨の頻度が増える一方で、無降水日の頻度も増加しており、雨の降り方が極端になっています。このような気象条件下で、将来に渡って水源涵養機能は安定して発揮されるのか、もしくはどのような変化が起きるのかを知るためには、長期的なモニタリングが必要です。
演習林では、昭和62年(1987年)から量水堰堤を利用した流量観測が行われています(写真3)。この長期データを活用して、大雨や無降水時に水の流出の仕方にどのような変化があるのかを調べています。また演習林での学生実習では、雲出川の源流に実際に触れながら、森林の水源涵養機能や渓流中の豊かな生物相について理解を深めています(写真4)。
写真3 量水堰堤(R7.7.1)
写真4 渓流を利用した学生実習の様子(R7.6.18)
3.シカによる下層植生の食害と土砂流出
スギ・ヒノキを中心とする日本の人工林では、シカの食害による下層植生の衰退が進んでおり、それに伴う土砂流出が懸念されています。また、伐期を迎えた人工林を伐採して植林したものの、シカの食害のため苗木が育たないことも各地で報告されています。
演習林において、シカの侵入を防止するシカ柵を設けて下層植生の変化をモニタリングすると、シカ柵が有る区画と無い区画で下層植生の繁茂に明瞭な違いが見られます(写真5)。このことから、演習林でもシカの食害によって下層植生は大きく衰退していると考えられます。そこで、下層植生の被覆率が異なる区画を設けて斜面を移動する土砂の量を計測し(写真6)、シカの食害による土砂流出リスクを調べています。これらの区画は学生実習にも使用され、学生がシカの食害を実際に観察できる場にもなっています。
写真5 シカ柵有り(左)と無し(右)の区画の下層植生の違い(R7.7.1)
写真6 斜面を移動する土砂量を計測する採取箱(R7.7.1)