三重大学 環境・SDGs報告書2022

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

基調講演Ⅰ

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

三重大学の環境・SDGs・カーボンニュートラル社会創生戦略とグローカル人材育成

 令和4年7月15日に開催された「日韓環境・SDGsフォーラムin三重」において、朴 恵淑三重大学特命副学長(環境・SDGs担当)が「三重大学の環境・SDGs・カーボンニュートラル社会創生戦略とグローカル人材育成」のテーマで基調講演を行いました。

朴 恵淑特命副学長(R4.7.15)

朴 恵淑特命副学長(R4.7.15)

基調講演の様子(R4.7.15)

基調講演の様子(R4.7.15)

 朴 恵淑特命副学長は、次の3つのテーマについて講演を行いました。一番目のテーマの「SDGs(持続可能な開発目標)」について、本学がトップランナーとして取り組んでいるグローバルな観点とローカルな観点を併せ持つ「グローカル」的SDGsの考え方および戦略は何か、二番目のテーマの三重県四日市市で半世紀前に発生した「四日市公害の教訓から学ぶ四日市学」とは何か、三番目のテーマの2050年「カーボンニュートラル社会」に向けたトップランナーとしての取り組みおよび次世代を担う「グローカル環境人材育成」について講演を行いました。
 環境地理学者として、地域を考えるときにはグローバル的観点で考え、グローバル的観点で考えるときには地域を考えるといった発想の転換について、地球の夜景の衛星写真を用いて説明を行いました。

地球の夜景(衛星写真)
地球の夜景(衛星写真)

 日本、三重県という地域が抱えている環境問題について、20世紀の1980年代の地球の夜景の衛星写真と21世紀に入ってからの衛星写真を比較しました。1980年代のエネルギー使用量とCO₂などの温室効果ガスの排出量をみると、アメリカが約23~25%、EUが約13~15%、日本は約3%~5%を占め、1980年代の日本は、世界の1位2位を争う経済大国であったと言及しました。21世紀になると、特に、アジアの韓国・中国・インドの経済発展に伴うエネルギー消費の増大による温室効果ガスの急増が明確に表れ、21世紀の経済・環境・社会との調和の取れた持続可能な社会を創る近道がSDGsの達成であり、四日市公害の教訓を活かす国際環境協力レジームの「三重モデル」によって、日本、三重県、三重大学が世界のトップランナーになり、Win-Winの関係が構築できると言及しました。
 環境問題のグローバルとローカルとの密接な関連の具体的な事例として、昭和47年6月にスウェーデンのストックホルムで初の国連人間環境会議が開催され、同年、四日市公害訴訟判決が7月24日に行われたことを挙げ、半世紀前の四日市公害の教訓を活かすことは、日本のみならず、国際環境問題へ貢献できることに我々は気づくべきであると強調しました。さらに、平成27年9月には、国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、その翌年(平成28年4月と5月)に、三重県において伊勢志摩サミットおよび桑名ジュニアサミットが開催されたことを踏まえ、三重県・三重大学が常にグローカル時代のトップランナーとなることに大きな期待が持たれると話しました。
 SDGsには、17の目標と169のターゲットがあり、各目標やターゲットは、バラバラではなく、つながっていることに気づくべきであると力説しました。例えば、この場に集まっている全員が目標4の「質の高い教育をみんなに」に関わっているが、皆は産官学民のさまざまな分野で活躍されているので、経済、エネルギー、イノベーション、住み続けられるまちづくり、気候変動、平和など、17の全ての目標がつながる場に参加していることに気付くべきであると言及しました。さらに、SDGsの大命題である「誰一人取り残さない」を実現するために、ソフト面とハード面でのイノベーションが必要不可欠であり、私たちは半世紀前の四日市公害でヒントを得ることができると強調しました。

四日市公害の過去・現在・未来
四日市公害の過去・現在・未来

 朴 恵淑特命副学長は、平成7年4月に三重大学に赴任した際の意義込みとして、四日市公害の発生メカニズム、人間を含む生態系への被害、四日市公害克服の環境政策などを研究するためであることを明らかにしました。1960・1970年代の日本の高度経済成長を支える一方で、四日市コンビナートからの大気汚染物質による地域住民の健康被害が四日市喘息であったことを指摘し、空や海など自然はつながっており、一つ間違えたらすべてがだめになることを踏まえ、四日市公害は、大気汚染による住民への健康被害だけでなく、伊勢湾で獲れた魚は油臭くて食べられないほど、伊勢湾の死の海による被害が深刻であったことにも言及しました。昭和47年7月24日の四日市公害訴訟判決によって、産官学民の協働による四日市の環境への回帰が始まったことを四日市公害訴訟の原告側の地域住民集会の様子の写真を用いて説明し、四日市公害の教訓から我々は何を学ぶべきか考えるのが四日市学であると、「四日市公害から学ぶ四日市学」について説明を行いました。

四日市公害訴訟の原告側の地域住民集会
四日市公害訴訟の原告側の地域住民集会

 四日市公害訴訟判決において、複数の企業の責任をどう考えるのか、大気汚染物質による健康被害の因果関係をどのように立証するのかが大きな争点であったが、三重大学名誉教授の故吉田 克己先生(公衆衛生学)の研究が大きく貢献したことについて言及しました。昭和45年に大気汚染を含めた公害対策基本法が制定され、三重県でも昭和46年、47年に条例を制定し総量規制が行われ、企業努力など、産官学民とのパートナーシップによって四日市に青空が戻ってきことを指摘し、企業の社会的責任(CSR)を果たすことを超えて、これからの時代は、地域の新しい共通の価値(CSV)をどのようにして創り上げるのかが重要であることを強調しました。
 2050年を見据えたカーボンニュートラル社会に向けて、半世紀前の四日市コンビナートの位置付けをどのように変えるのかを真剣に考えなければならない時代に差し掛かっていることから、四日市公害を経験している三重・四日市の経験からアジア諸国への国際環境協力を通じた、Win-Winの「三重モデル」の構築が必要不可欠であることを強調しました。
 続いて、令和3年11月にイギリスのグラスゴーでCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議:令和3年10月31日~11月13日)が開催され、世界は、気候変動(Climate Change)の時代から気候危機(Climate Crisis)の時代へ変わったことへの認識共有について言及しました。経済活動優先の世界が続くと、21世紀末の気温が5℃から6℃くらい上がり、人間を含む生き物の命を守るためには、気温上昇を1.5℃に抑える必要があること、気温上昇を抑えるための対策の一つとして、化石燃料に依存しているエネルギー源を再生可能エネルギー源に切り替える必要に迫まられていることなどが話されました。COP26では、バラク・オバマ元大統領が「若い人たちは自分たちが目指しているイメージを具現化していくためにパートナーシップを組んで努力すること、何にも動かない政府や企業に怒りを示すこと」と、若い人たちに対して熱いメッセージを送っていたことにも触れました。
 グラスゴーは、18世紀にジェームスワットが蒸気汽関を発明したことによって産業革命が始まった地域だけあって、産業革命の街から緑の革命の街に変革を図っていたことを伝え、一例として、再生可能エネルギーで動く電車に切り替えるための”NET ZERO HERO”というキャッチやスローガンが駅舎のいたるところで見かけられたことについても話しました。

COP26の本会議・特別講演・環境活動およびグラスゴーの鉄道
COP26の本会議・特別講演・環境活動およびグラスゴーの鉄道

 最後に、地球規模の地球温暖化問題や地域の大気汚染問題は、コインの表と裏と同じで、環境問題の根底は環境と経済の調和の取れた社会の発展ができていないことから発生するので、半世紀前の四日市公害から学ぶことで環境問題は解決できると強調しました。特に、研究機関として知の拠点的役割、社会の実験の場としての役割、地域のステークホルダーのプラットホーム的場であり、グローカル人材育成の場としての三重大学の重要な役割について言及しました。三重大学の代表的取り組みとして、令和3年4月の伊藤 正明学長の就任に伴う「三重大学環境・SDGs方針」の作成および公表を挙げました。グローバル的視点とローカル的視点を併せ持つ、教育・研究・社会貢献・業務運営について明確なビジョンを示し、かつ、これまでの環境報告書を「三重大学環境・SDGs報告書」に変え、本学が環境・SDGsのトップランナーであるとことを内外へアピールしたことについて高い評価を得ています。平成16年の環境配慮促進法に基づいて国立大学は、毎年9月30日までに環境報告書を発行しなければなりませんが、環境・SDGs報告書に名称を変え、環境・SDGs・カーボンニュートラルのトップランナーとしてのスタンスをはっきり示したこと、また、環境・SDGs座談会において、学長と教職員だけではなく、学生が中心的役割を担う内容になっていることについても高く評価されています。さらに、三重県が策定した「三重県SDGs推進パートナーシップ制度」について、本学が高等教育機関として唯一、登録機関になっていることについても高く評価されています。
 大学のシーズと地域のニーズとのマッチングによって地域創生の成敗が決まることから、本学が地域の産官学民のパートナーシップだけでなく、国連気候変動枠組条約機関など国際機関との協働によって、地域からグローバルに発展でき、グローバルから地域に還元できるメリットが期待できると言及しました。本学が、四日市公害の教訓から得ている経験およびノウハウを活かして、自然共生社会・循環型社会・カーボンニュートラル社会のトップランナーとなった身近な成功事例について語りました。一例として、学内の生協において、全国初のレジ袋の有料化の成功事例を挙げました。三重大学生協でのレジ袋有料化運動を平成19年6月から展開し、平成20年1月に完全実施に成功できたことは、政府が令和元年7月1日に全国のレジ袋有料化を実施したことに比べて、12~13年も前に成功していること、なお、三重大学内だけに留まらず、平成24年4月には三重県全域で実施できるように地域に働きかけ、大学の社会的責任を超えて、地域の共通の価値創出(CSV)の成功事例となっていることを強調しました。
 最後の締めくくりとして、「環境・SDGs三重大学モデル」は、2050年の脱炭素・カーボンニュートラル社会構築においても有効なツールになることから、今日のこの場が、環境・SDGs・カーボンニュートラル社会の実現に向けたホップ・ステップ・ジャンプのビッグ・チャンスになることを期待したいと結びました。

地方共創大学三重大学のSDGs・カーボンニュートラル社会創生戦略
地方共創大学三重大学のSDGs・カーボンニュートラル社会創生戦略

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