三重大学 環境・SDGs報告書2022

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

輸送機器の軽量化のための異種材料接合に関する研究

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

〈大学院工学研究科〉尾崎 仁志 (助教)

 近年、輸送機器などの工業製品の軽量化、高機能化、また製造コスト低減等への要望から、アルミニウム合金と鋼、アルミニウム合金とチタン、チタンと鋼など、従来の方法では接合が難しい、異種材料の接合に対するニーズが増加しています。その背景には、地球環境の問題が挙げられます。
 例えば、自動車産業においては、世界全体で未だ多くの自動車が化石燃料を使用し、CO₂ガスが排出されることにより、地球環境の問題となっています。昨今はグローバルな地球環境を重視した時代となり、特に温暖化防止対策としてのCO₂排出量削減は、世界共通の課題として、実効ある対策が急務となっています。その一方で、ユーザの安全意識の高まり、安全基準の厳格化、ニーズの多様化・高度化などにより、燃費に直接影響する車両重量は増加の一途をたどっています。つまり、自動車は軽量化による燃費向上(CO₂排出量削減)と安全性向上という、車両重量としては相反する目標を両立させなければならない複雑な状況にあります。  自動車の軽量化と安全性向上を両立させる1つの方法として、特性の異なる材料、例えばアルミニウム合金と鋼などを車体の適材適所に配置した、材料ハイブリッド構造が有効であると考えられ、相次いで開発、市販され始めています。しかし、未だ一部の車種への適用に限られているのが現状です。今後、この材料ハイブリッド構造の適用をさらに拡大していくためには、異種材料を高い信頼性と生産性で接合する技術の開発が必要不可欠となっています。ところが、従来の溶融溶接法(材料を溶融させて接合する方法)による異種材料接合は困難です。
 それは、従来の溶融溶接法による異種金属接合では、両材料をともに大きく溶融・合金化してしまうため、接合部の脆化を招く金属間化合物が多量に生成し、十分な継手強度を得ることができないためです。また、融点や熱伝導率などの物性値が異なるため、例えば融点が大きく異なる場合、そのまま溶融溶接すると融点が低い側のみが溶け落ちてしまうなどの問題も生じます。
 そこで私は、レーザロール溶接法による異種材料接合について研究しています。本溶接法は名古屋大学(当時)の沓名らによって開発され、図1に示すように、レーザとローラとを組み合わせた、従来にはない新しい溶接法です。レーザにより材料Aのみを加熱し、その後ローラによる加圧によって材料同士を密着させ、熱を上側の材料Aから下側の材料Bに伝えて接合します。その際、レーザが急熱急冷の温度履歴を実現可能なことから、接合部における脆性な金属間化合物の生成が抑制され、接合部の強度向上が期待できます。
 これまでの研究で、接合が困難とされていた材料の組合せを接合可能としてきました。例えば図2に示すように、本溶接法により作製した各種組合せによる重ね継手は、引張試験の結果、母材(接合部ではないか所の材料)において破断することが確認されており、本溶接法が異種金属接合に対して有効であることが示されています。今後は、マグネシウム合金とアルミニウム合金など、他の組合せにおけるレーザロール溶接の特性について研究していく予定です。

図1 レーザロール溶接法の概略図
図1 レーザロール溶接法の概略図
図2 各種レーザロール溶接継手の引張せん断試験後の試験片
図2 各種レーザロール溶接継手の引張せん断試験後の試験片

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