三重大学 環境・SDGs報告書2022

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

LEDの特徴を活かした水の効果的な紫外線殺菌

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 6 安全な水とトイレを世界中に
  • 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう

〈教育学部〉市川 俊輔 (准教授)

 近年、発光波長260-280nmを示す紫外線LED(UV-LED)開発が急速に進んでおり、波長・強度・照射時間などを制御できるようになりました。高出力で安価なLED製造ができるようになり、UV-LEDの産業利用も可能になりつつあります。伝統的な紫外線光源としての水銀ランプと比較して、LEDはサイズが小さい、発熱が少ない、波長選択性がある、化合物の残留性がない、水銀を使わないため環境負荷が小さいなど、多くの利点をもっています。水の殺菌処理はUV-LEDの主たる活用機会になると考えられていますが、しかしUV殺菌処理後に細菌が再増殖してしまうことが問題となっています1)。そこで私は、UV-LEDによる細菌の殺菌における特徴を複合的に明らかにし、加えて、残存生菌数を限りなく小さくするための効果的なUV-LED照射条件を確立することを目的として研究を進めました。
 シャーレ内で細菌を含む水溶液に波長260nmのUV-LED光をあて、その後の生存菌数を評価しました(図1)。10 mJ/cm²までUV照射エネルギーを強くすると、生存菌数は対数的に減少しました。一方で、それ以上の照射エネルギーを与えても効果的に生存菌数を減少させることができませんでした(図2)。従って、UVをあてつづけても水を滅菌することは難しいことが分かりました。このUV殺菌処理水を、細菌が好む条件に置くと、やはり細菌の再増殖が生じてしまいました。
 UVをあてつづけても水中の細菌をすべて殺菌できないことの原因は、細菌集団のうちごく一部がUVに耐性を示すからではないかと考えました。ここで観察しているUV耐性細菌の特徴は、パーシスターとよばれる抗生物質耐性細菌の特徴とよく似ていることに気づきました2)。パーシスターについては研究が進んでおり、知見を多く見つけることができます。細菌集団を、パーシスター出現条件におくと、UVで殺菌しにくくなることがわかりました。従って、UV耐性細菌はパーシスターと同一なのかもしれません。
 遺伝子のはたらきを観察することで、各細菌がパーシスターかどうかを区別することができます。私はUV処理後の細菌が再増殖する様子を顕微鏡で観察しながら、各細菌での遺伝子のはたらきを調べました(図3)。すると、再増殖している細菌はパーシスターではないようで、従ってUV耐性を失っているかもしれないと考えました。
 上述の通り、一度に長時間UV照射しても(UV一括照射)、効果的に水を殺菌することは難しいです。一方で、ここまでの結果から、UV処理後の生存細菌が再増殖するタイミングでUVを再度照射したら、効果的に殺菌ができるかもしれないと考えました。ここでは、UVを1分間処理した後に37℃で1時間おいて再増殖を促したのちに再度1分間UV処理を行う、UV間欠照射の効果を検証しました。37.5 mJ/cm²のUVを一括照射した場合は生存菌数が残存してしまいますが、37.5 mJ/cm²のUVを間欠照射した場合は、生存菌数を限りなく小さくできることが分かりました(図4)。このUV間欠照射は、UV-LEDの消費電力を大幅に低減できる点でもメリットがあります。たとえば1分間の照射と1時間の休止を繰り返す場合には、消費エネルギーは1/60になります。殺菌灯は初期電力が大きいため照射と休止を繰り返すことは適さないと考えられ、従って間欠照射はLEDの特徴を活かしたUV殺菌法であると言えます。
 以上の通り、本研究では細菌集団中に一部UV耐性のある細菌が存在すること、その細菌の特徴は抗生物質耐性細菌(パーシスター)のものと酷似していること、再増殖中の細胞は耐性を失っておりUV間欠照射により効果的に殺菌できることを明らかにしました3)

参考文献

  • Wang M, Ateia M, Awfa D, Yoshimura C. Regrowth of bacteria after light-based disinfection – What we know and where we go from here. Chemosphere. 2021. 268:128850.
  • Lewis K. Persister cells, dormancy and infectious disease. Nat. Rev. Microbiol. 2007. 5(1):48-56.
  • Ichikawa S, Okazaki M, Okamura M, Nishimura N, Miyake H. Rare UV-resistant cells in clonal populations of Escherichia coli. J. Photochem. Photobiol. B. 2022. 231:112448.
図1:シャーレ系でのUV-LEDによる殺菌実験
図1:シャーレ系でのUV-LEDによる殺菌実験

a: 実験に用いたUV-LED b: UV-LEDの発光スペクトル c: シャーレ中でのUV光の照度分布 d: シャーレ系でのUV-LEDによる殺菌実験のようす

図2:細菌(大腸菌)の260nm UV-LEDでの殺菌曲線
図2:細菌(大腸菌)の260nm UV-LEDでの殺菌曲線

1mLあたり108 個の細菌を含む水溶液に対してUV照射し、その後の生存菌数を評価しました。

図3:UV殺菌処理後に再増殖する細菌の顕微鏡観察
図3:UV殺菌処理後に再増殖する細菌の顕微鏡観察

細菌を含む溶液にUV照射し、その後に再増殖する細菌を顕微鏡下で観察しました。培養開始時点の明視野像で確認できる細菌のうち、1つの細菌のみがUV照射後も生存しており、再増殖して3.5時間のうちに数十の細菌からなる塊を作っています(黄色点線で示す)。明視野像と同じ視野で緑色蛍光像を撮影しました。耐性遺伝子がはたらいている細菌は、緑色で示されています。再増殖している細菌塊では耐性遺伝子のはたらきは確認できず、従ってUV耐性を失っているものと考えられます。

図4:UV間欠照射による効果的な水の殺菌
図4:UV間欠照射による効果的な水の殺菌

UV一括照射では、一度にUVを照射し、水の殺菌処理を行いました。一方で、UV間欠照射では、UVを短時間照射した後、1時間放置することで細菌の再増殖を開始させ、再度UVを照射しました。合計で37.5mJ/cm²のUVを照射し、UV一括照射とUV間欠照射の殺菌効果を比較しました。

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