三重大学 環境・SDGs報告書2022

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

健康寿命を延ばすための取り組み -転倒・骨折予防システムの開発-

  • 3 すべての人に健康と福祉を

〈大学院医学系研究科〉福録 恵子 (教授)

 日本人の平均寿命は世界でもトップクラスであり、2040年には平均寿命100歳以上の人口が30万人になると予想されています。そのため介護を受けたり、寝たきりになったりせずに生活できる健康寿命の期間を延ばし、誰もが何歳になっても健康に不安なく人生を楽しんだり、社会で活躍できる環境が必要となります。しかしながら、高齢者が寝たきりや不自由な生活を送ることから何らかの介護を要する期間、つまり平均寿命と健康寿命との差は、男女ともに10年前後あります。この要介護状態は、運動器の機能低下に関連する割合が高く、全体の約3割を占め、その要因としては、骨密度が減少し骨がもろくなる骨粗鬆症を基盤とした転倒・骨折があげられます。骨粗鬆症患者は日本国民の1割、約1300万人ほどで、そのうち約8割が女性です。骨粗鬆症が進行すると、筋量、筋力が低下しやすくなり、フレイルといわれる状態になります。また骨粗鬆症と筋量低下が併存することにより、社会的な繋がりの乏しさと関連することがすでにわかっています。Covid-19パンデミック以降、外出自粛によってコロナフレイルの増加が懸念されるなど一層注目を集めています。
 持続可能な開発レポート2022年「Sustainable Development Report 2022」によると、日本におけるSDGs 17目標の国別目標達成度に関する順位は19位であり、【目標3】すべての人に健康と福祉を に関しては、課題が残っていると評価されています。
 このような中、高齢化社会を持続的なものにする次世代のヘルスケアの姿として、人工知能(AI: artificial intelligence)技術の利活用による健康寿命延伸に向けた取り組みが進みつつあります。その一例として、センサを用いて人の日常生活行動を観測、分析する「高齢者見守りシステム」があります。このように、すでに実現化し広がりをみせてはいますが、各種センサの装着に対する身体的・精神的負担は、持続使用する際の困難さにつながっており、負担の少ないシステムが熱望されています。
 現在進めている研究では、運動器に疾患のある地域在住高齢者に対し、体組成計による筋肉量測定や、活動量計による身体活動量と睡眠状況測定、環境センサによる室内環境測定等 様々な項目を定期的、長期的にモニタリングして、その関連性の分析を行っています(図1)。多くの要因の中から、身体機能や身体活動量の低下に関連性が高いものを厳選し、それら特定要因の経時的変化をモニタリングすることで、骨折予防に役立てたいと考えています。そして将来的には、各種センサを体に装着することなく、簡単に良質なデータが取得できるデバイスフリーセンシングの構築を実現したいと考えています。そのような活動によって、効果的な自立支援の方法を確立し、普及させることにもつながります。

図1 現在行っている研究の全体像
図1 現在行っている研究の全体像

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