6環境・SDGs研究
新時代の炭づくりへ
- 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 13 気候変動に具体的な対策を
〈大学院生物資源学研究科〉滝沢 憲治 (助教)
皆さんは炭について考えるとき、何を思い浮かべますか。バーベキューのときに使っているとか、脱臭効果のために冷蔵庫に入ってるとかでしょうか。近年、炭化に関する研究が盛んになっています。それは炭の持つ様々な性質が環境に優しいと考えられているためです。
酸素がない、あるいは少ないところで材料を加熱すると、材料内の揮発分が抜けていきます。揮発分には酸素や水素が多いため、揮発分が抜けることにより相対的に材料内の炭素の割合が増えます。この炭素含量の高いものを炭と呼びます。炭は保存性や燃焼性が高く、燃料として優れています。また燃料として利用される以外にも、肥料や土壌改良剤、吸着材など様々な利用方法があります。このようにバイオマス由来の製品として多くの機能を持っていることが、地球に優しいといわれる大きな理由となっています。
一般的な炭化方法は、木材のようなある程度乾燥しているものを対象としており、高含水のものに適用するのは水分を飛ばすのにエネルギーがかかるため適切ではありません。一方で、水熱炭化という高含水の材料に適した炭化方法もあります(図1)。これは高温高圧下で水とバイオマスを反応させる方法であり、水熱炭化物と廃液を生成します。この方法は高含水のバイオマスに適用できるだけでなく、熱水が触媒の役割を果たし反応を促進することがメリットとして挙げられます。また反応中に無機物やたんぱく質などの成分は液相に溶解するため、得られる炭は良好な品質を持っています。私たちはこの水熱炭化法を微細藻類に適用させる研究を行っています。
微細藻類は水の中に生息する光合成を行う数~数十µmの大きさの微細生物です。陸上植物と比べてポテンシャルが高いことから、近年研究が進められており、その特長は大きく3つあります。1つ目は単細胞生物を理由とした生産効率の高さです。陸上植物に比べて細胞が単純構造であるかつ光合成能力も高いため増殖速度が速く、生産量は他と比べ9-75倍と圧倒的です。2つ目は環境適応の高さです。微細藻類は海水や淡水など様々な環境で存在することができます。3つ目は供給の安定性です。陸上植物は土壌で栽培するため、天候や食糧不足などの外的要因に供給が左右される一方、微細藻類は水中で培養するため外的要因に影響されにくく、培養場所が他種と競合しないため供給が安定します。また、土地を選ばないため耕作放棄地などの有効活用にも繋がることができます。
我々は、これまで積み重ねた水熱処理の知見から、高含水率の微細藻類と水熱炭化の組み合わせを提案し(図2)、微細藻類中の成分(炭水化物、脂質、タンパク質)の含水下における利用法の確立を目指しています。具体的には、水熱処理により微細藻類中の炭水化物、脂質およびタンパク質をそれぞれ、炭化物、バイオディーゼル原料および培地としての利活用を同時に得られないかと研究を行っています。また栄養リサイクルの観点から水熱処理により生成されるタンパク質分解物および無機物を含む排液を新たな微細藻類培養培地として利用することも本システムの特徴となっています。まだまだ解決すべき課題はありますが、将来的にはエネルギー自給率の向上や二酸化炭素排出の削減に貢献できればと思っています。