2特集
日本の里海
~三重県鳥羽市における地域資源としての自然環境・共生文化・生物多様性利活用モデル実証事業~
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 11 住み続けられるまちづくりを
- 14 海の豊かさを守ろう
- 15 陸の豊かさも守ろう
<生物資源学研究科 附属施設水産実験所>山本 康介(助教)

- 実施団体
- 国立大学法人三重大学・一般社団法人相差海女文化運営協議会(相差DMO)・鳥羽商工会議所・鳥羽市・漁業と観光の連携促進協議会・鳥羽市教育委員会・菅島の未来を考える会・鳥羽市水産研究所・鳥羽市立海の博物館
「里海」とは、人の手が入ることで生き物や自然の豊かさが保たれている沿岸の海のことです。日本の沿岸の海は、昔の公害による水質悪化からは改善したものの、現在は気候変動や社会の変化といった新しい問題に直面しており、多角的な解決策が求められています。
そこで環境省の『今後の里海づくりのあり方検討会』は、これからの「令和の里海づくり」に向けて3 つの柱を提言しました。
- 海を守り育てる: 壊れた海を再生・創出するだけでなく、数字で表せる具体的な目標を立てて科学的に管理します。
- 海をみんなで活かす: 漁業だけでなく、観光や日常の暮らし、学校での学習(海洋教育)に里海を活用します。
- みんなで協力する: 地域の人やさまざまな団体が参加し、つながれる仕組みを作ります。
この提言を受けて、国や地域、市民が力を合わせ、自然を守りながら生活を豊かにしていく取り組みを進めていくことになったのです。
これが、環境省の進める『戦略的「令和の里海づくり」基盤構築支援事業』の始まりです。そして、令和7年度には本学の山本康介先生の研究が、この事業にふさわしいと選ばれました。
それでは、先生の研究がどのようなものか、見てみましょう。
鳥羽市は全域が伊勢志摩国立公園に指定されており、複雑な海岸線と伊勢湾からの栄養塩、太平洋からも生物が移入し海洋の生物多様性に富む稀有な自然環境を有する。三重県は磯焼けが南部から進行しているが、鳥羽市は冬季に北西の山脈から冷水が流れ込むため海藻の生育に適した低水温が現在も維持されており、いくつもの地点で四季藻場が現存している。特に、4つの有人離島周縁では、志摩以南で全滅しているアラメ・カジメ場が多く見られ、天日に海藻を晒して干すような日本の里海の原風景とも言うべき海藻食文化が生きている。また、日本一の海女地域であり自然と人間との共生が古来より続く日本の里海の象徴的地域である。内陸部に目を向けると、川沿いの平野部・山間部に稲作や畑作が見られ、里山の風景とそこに生息する生物群が見られる。海洋環境への市民の意識も高く、全域で海洋教育が推進されているほか、いくつもの自然・環境・文化に関する活動が行われている。
<里海とは>
里海とは、海と人里の中間部分であり、人の手で自然に働きかけ環境が形成・維持されている領域かつ、人の手が加わることにより生物多様性が増している領域。

<解決すべき地域課題>
- 藻場および生物多様性に関する課題
動植物の増減に関する持続的なモニタリング体制が構築されておらずその動向は把握できていない。また、三重県の広範囲の海域で見られたアマモ場が減少しており、藻場の再生事業を継続して実施していく必要がある。 - 人口減少・担い手不足に関する課題
人口減少が著しく進んでおり、小・中学校の廃統合が進んでいる。里海環境を維持していく担い手不足や、自然との共生文化の継承が喫緊の課題となっている。海女漁の対象生物の減少や収入減、高齢化による持続的な海女漁実施が困難となっており、新規の担い手も不足している。 - 資源の利活用に関する課題
ステークホルダーが地域の資源の価値を正しく認識できておらず、地域資源を効果的に利活用できていない。観光資源としての利活用においては、個々の活動に横連携が取れておらず、地域としてのノウハウ等の蓄積ができていない。
<事業実施内容>

- 教育プログラムの構築・実施と効果の調査
伊勢志摩に特有の自然環境や生態系、アマモ場の再生、自然と人間の共生関係や文化に着眼した海洋教育プログラムを構築し、鳥羽市の全小・中学校および鳥羽市に修学旅行に来る生徒へ向けて実施する。
※野外活動の効果の調査(鳥羽市教育委員会・菅島の未来を考える会・海の博物館・三重大学)

- 藻場保全・再生・創出・利活用 生物多様性保全・保護
伊勢志摩に特有の生態系を理解するための環境・生物モニタリングを実施する。海洋生物だけでなく里山環境や鳥羽の海に流れ込む河川の淡水生物も対象とする。学術的なデータのほか、持続的に収集可能な写真データ等の収集・活用方法について検討する。
※海藻増養殖事業(鳥羽市農林水産課・鳥羽市水産研究所・海の博物館・漁業と観光の連携促進協議会・三重大学)
観光プログラムの構築・実施
海女文化を基盤とした観光プログラムおよびそのコンテンツとなりうる資源の発掘・商品開発を行う。プログラム内容には海女漁体験、海女料理体験のほか、観光プログラム実施を持続的に行うためのスタッフ教育プログラムを含む。
※海女文化を活用した観光プログラム(相差海女組合・相差DMO・商工会議所・鳥羽市観光商工課・海の博物館・三重大学)

<事業指針>
- ステークホルダーの安定した生活を大切にする(ウェルビーイング)
- 地域資源を利活用するステークホルダーが生まれ続けるような影響力のあるプログラムを構築する(地域循環共生圏)
- 全ての基盤となる自然環境・生物多様性についてモニタリングしこれを維持(回復)する(ネイチャーポジティブ)
- 鳥羽市 施政方針 先を見据えたまちづくりと地域共生社会の実現(R6)
- 令和7年度戦略的「令和の里海づくり」基盤構築事業(環境省)
- 藻場・干潟の保全・再生・創出
- 地域資源の利活用による好循環
- 多様な主体者との連携
人的資源に乏しい鳥羽市においては、地域資源を基盤とする観光・教育プログラムは、それ自体がヒト・資金の確保に直結する必要がある。地域資源の価値に対する理解をステークホルダー自身が深め、対外的な影響力を最大化することで、観光・教育プログラム実施の収益による彼ら彼女ら自身の安定した生活の保障を目指す。体験プログラム構築の事業によって「体験者がプログラムから受ける可能性のある影響」を明らかにし、それらを根拠として観光者・修学旅行者への効果的なアピールを行い、体験者へ鳥羽市の地域資源に対する愛着(郷土愛)や定住志向に関する感情の変化を与え、新たなステークホルダーになるための強烈なきっかけとする。
鳥羽市ではプロ・アマチュア含め様々な研究者・漁業者や野外活動体験者らが野生生物との接点を日々持っている。それらをデータ化して低コストで集約・データベースへの蓄積を行う仕組みを構築することにより、持続可能な自然環境・生物多様性のモニタリングを行う。地域資源が維持されている限り、当該地域の自然環境や多種多様な生物は人々の興味の的であり続ける。このことは、地域資源を調査したり、漁業対象としたりといった、モニタリングに必要なモノや活動が自発的に集まり続けることを意味する。
<教育プログラムの構築・実施と効果の調査>
体験活動プログラムを実施したクラスを対象にアンケート調査を実施(事前・事後)
- アンケート実施方法
- 郷⼟愛、定住志向、⾃然、⽣物、海に関する質問で構成
- 選択回答と記述回答
- 個⼈に配布されているタブレット端末で回答
地元の自然環境をテーマとした体験型のプログラムは、自然や生物に対する興味関心を高め、さらに郷土愛や定住志向を高める効果があることが示された。自然や海、生物を好きになり大切に思う気持ちは高い水準で推移する一方で、定住志向については中学生から低下することが示唆された。

鳥羽の魅力に関する自由記述の分析では、海に次いで水産・漁業のスコアが高く、中学校での水産・漁業に関する体験プログラムを構築・実施することにより、中学生から低下が見られた定住志向の値を回復させることが出来るのではないかとの仮説が得られた。

鳥羽市に将来住みたい生徒と住みたくない生徒それぞれの理由について集計した結果、共通する項目として「田舎だから」が挙げられた。地域資源としての「自然」が子供たちに強く印象付けられており、その理解や愛着の度合いが将来の居住選択にとって重要な要素であることが示唆された。
鳥羽市の自然をテーマとした野外での体験プログラムの体験者に対し実施したインタビュー調査では、「なじみのある自然」に起因する郷土愛の醸成と、郷土愛を基盤とし定住志向・関係人口意識の上昇プロセスが浮かび上がった。


<観光プログラムの構築・実施>
観光業者と漁業者(海女)との意見交換会を実施し、海女文化をテーマとしたプログラムを構築するための双方の意見のすり合わせを実施。漁業者の意見として、「実際の漁場を舞台とするプログラムは受け入れられない」、「漁業収入が減少する中、観光プログラムによる収入がありがたい」といった意見が得られた。また、過去の鳥羽市への観光をきっかけとした海外からの移住者のコメントが共有され、インパクトのある観光プログラムが、人口増加や関係人口増加に対し効果があるという意識が関係者間で共有された。

<藻場保全・再生・創出・利活用生物多様性保全・保護>
日本一の海女地域である相差地区で藻場調査を実施。生物多様性の基盤となるアラメ・カジメ場を構成するカジメ群落や、この地域のみで見られる貴重なナガシマモクが見られた。一方で、魚による食害や、ムラサキウニによって磯焼け状態となり地面がむき出しになったエリアが散見された。
生物モニタリングに関する分科会を実施し、鳥羽市での環境・生物モニタリングの方向性を議論した。持続的なモニタリング方法として、鳥羽市各地で実施している教育・観光プログラムの際に撮影される生物の写真データを活用する方法を検討した。

海底のカジメ群落

この地域のみで見られるナガシマモク


食害生物による磯焼け

<モデルツアーの構築・日仏海洋学会のエクスカーションとして実施>
海女をテーマとした観光プログラムをフランス人に対し実施したところ、「海女の伝統継承意識」、「海女の人となり」、「海女の環境への配慮」、「海女の仕事への姿勢」に高い興味を示しており、これまでの食事や風景といった要素だけでなく、海女文化の理解を中心としたプログラムがインバウンドへの訴求力が高いことが示唆された。
- プログラム
- 9:30
- 集合~歓迎の挨拶
2グループに分かれて散策
(鯨崎周辺の案内、リアル海女小屋見学、白浜かまど、はちまんかまどに訪問) - 11:10
- ランチ
- 12:30
- 食事終了
エクスカーション風景 開会式~海女小屋移動 はちまんかまど、白浜かまど訪問風景








