6環境・SDGs研究
建物の空調を効率化する蓄熱技術
- 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
<工学研究科 建築学専攻>北野 博亮(准教授)
私たちが日常的に利用する学校、商業施設、病院、オフィスなどでは、快適な室内環境を保つために空調設備が使われています。快適性を維持しながら、建物で消費するエネルギーを減らすことは、持続可能な社会を実現する上で重要な課題です。特に、夏や冬の電力需要が多い時間帯には、冷暖房による電力需要が集中し、発電設備や送電設備への負担が大きくなることがあります。こうした課題に対応する方法の1つが「蓄熱技術」です。蓄熱とは、冷房に必要な冷熱や暖房に必要な温熱をあらかじめつくって蓄え、必要な時間帯に取り出して利用する仕組みです。例えば、電力需要が比較的少ない時間帯に冷水や温水をつくり、昼間の冷暖房に利用すれば、電力を使う時間帯を分散できます。また、冷凍機やヒートポンプなどの熱源機器を効率よく運転しやすくなるため、空調システム全体のエネルギー消費を抑える効果も期待できます。


本研究では、水に冷熱や温熱を蓄える「温度成層型蓄熱槽」を適切に設計し、効率よく運用するための検討を行っています。空調で一般に扱う温度範囲では、温度の低い水は密度が大きいため下側に、温度の高い水は上側に分かれます。このように、温度の異なる水が上下に層を形成する状態を「温度成層」といいます。温度成層型蓄熱槽はこの性質を利用したもので、内部に仕切りを設けなくても、1つの水槽の中に温度の異なる水を分けて蓄えることができます。この蓄熱槽を使った冷房システムでは、槽の下部にある低温水を取り出して空調機へ送り、室内の空気を冷却します。冷房に使われて温度が上昇した高温水は、槽の上部へ戻されます。しかし、水を出し入れする際の流速が大きすぎたり、流入出口の位置や流れ方が適切でなかったりすると、槽内の水が混ざり、温度成層が乱れることがあります。その結果、冷房に利用できる低温水が減るなど、蓄熱槽の性能が低下します。

そこで、蓄熱槽内の温度分布が時間とともにどのように変化するかを予測する計算手法を開発しました。この手法では、蓄熱槽を高さ方向に多数の層に分割し、各層における水の流入・流出、上下方向への水の移動、隣り合う層の間の熱移動などを計算します。これにより、高温水と低温水の境界に形成される温度変化の大きい領域が、運転に伴ってどのように移動し、どの程度広がるかを予測できます。実際の現象を細部まで再現することよりも、設計や運用の検討に使いやすいことを重視し、比較的少ない計算量で予測できる手法としました。
この手法を活用することで、蓄熱槽の大きさや水の流入出口の位置・形状など、複数の設計条件を事前に比較できるため、適切な蓄熱槽の設計を検討しやすくなります。また、槽内の温度分布や温度成層の変化を予測できるため、空調需要に応じた運転を検討しやすくなります。これにより、空調設備の安定した運転やエネルギーの有効利用につながると考えられます。
さらに、太陽光発電など、天候や時間帯によって発電量が変化し、電力需要に合わせて出力を自由に調整することが難しい電源と組み合わせる活用方法も考えられます。発電量が多く、電力供給に余裕がある時間帯に冷熱や温熱を蓄えておき、必要なときに利用することで、発電した電力を有効に活用できると考えられます。このように、この研究は、蓄えた冷熱や温熱を必要なときに無駄なく使うための基礎となるものです。建物の省エネルギー化、電力需要の平準化、空調設備の効率的な運転を通じて、環境への負担を抑えた建物づくりへの貢献が期待されます。