6環境・SDGs研究
天然記念物から探る過去の地球環境と自然保護の課題
- 4 質の高い教育をみんなに
- 13 気候変動に具体的な対策を
<教育学部 理科教育講座>栗原 行人(教授)
三重県津市西部に広がる一志層群は、約1900〜1700万年前(新生代新第三紀前期中新世)の地層で、二枚貝や巻貝、サメの歯などの化石がたくさん見つかることで昔から知られています。この地層の2つの化石産地「榊原の貝石山」と「柳谷の貝石山」は、それぞれ1937年(昭和12年)と1941年(昭和16年)に三重県の天然記念物に指定されました。化石が見つかる場所が天然記念物になった例としては、全国的にもかなり早い時期のことでした。
この化石産地は、実は環境研究とも深く関わっています。地層に閉じ込められた貝の化石は、大昔その場所がどんな海だったかを教えてくれる「タイムカプセル」です。現在の環境問題を考えるとき、過去の気候や海の様子を知ることはとても役立ちます。例えば、大昔の海水温や生き物の種類を調べることで、地球の環境が長い時間の中でどう変化してきたかを知る手がかりになるのです。つまり化石産地は、単なる観光名所ではなく、地球環境の歴史を記録した貴重な「自然のアーカイブ」だといえます。
しかし今回の研究で分かったのは、この2つの貝石山がどのような経緯で天然記念物に指定されたのか、はっきりした記録が三重県の公文書には残っていないということです。唯一の手がかりは、1940年に発行された『三重県知事指定史跡名勝天然記念物』という本の中の文章でした。それによると、1936年頃に榊原に温泉施設ができて観光客が増え、多くの人が化石を採集した結果、崖の表面から化石がほとんどなくなってしまったそうです。そこで、これ以上化石が失われないように採集を禁止し、大切に保存する必要があると訴えられていました。
これは、今でいう「乱獲による自然資源の枯渇」という環境問題そのものです。人が自然に興味を持ち、たくさん訪れることは良いことですが、それが行き過ぎると、貴重な自然の記録を壊してしまうことにもなりかねません。この事例は、観光と自然保護のバランスをどう取るかという、現代にも通じるテーマを含んでいるのです。
当時の記録には、オオキララガイやアカガイ、ホタテガイなど、多くの貝化石の名前が挙げられていましたが、実際の標本は博物館などに残っていないようです。つまり、天然記念物に指定されてから80年以上たった今でも、これらの化石について詳しい科学的研究が十分に行われていないことが分かりました。過去の環境を知るための貴重な手がかりを、これからきちんと調べていくことが求められています。私たちの研究室では、「貝石山」をはじめとする三重県のジオサイト(地質学的名所)を動画で紹介する活動を行っています。興味のある人はYouTube「三重県ジオサイトデータベース」と検索してみてください。


動画リンク
榊原の貝石山 https://youtu.be/2xMkqmsTo60
柳谷の貝石山 https://youtu.be/nLuJsZNMSzw