6環境・SDGs研究
DXで守る地域の宝「蓮台寺柿」―ニホンザルとの共生を目指して―
- 11 住み続けられるまちづくりを
- 15 陸の豊かさも守ろう
<大学院生物資源学研究科・附帯施設農場>三島 隆(准教授)
はじめに:300年の歴史を誇る蓮台寺柿とSDGs
三重県伊勢市は、300年もの歴史を持つ「蓮台寺柿(れんだいじがき)」の産地です。この柿は、鼓獄山(こごくさん)にある蓮台寺というお寺にちなんで名付けられ、地域の大切な宝として守られてきました。しかし現在、この特産品が野生のニホンザルによる深刻な食害にさらされています(図1)。

伊勢自動車道周辺から南側の豊かな自然が残る地域に多くの群れが活動しています。
被害は農業だけにとどまりません。サルの群れが小学校や保育園の通学路に出没したり、庭先に居座って子供のお迎えに行けなくなったりするなど、人々の生活にも大きな不安を与えています。私たちは、地域の住環境を守る「目標11:住み続けられるまちづくりを」と、野生動物の命を尊重する「目標15:陸の豊かさも守ろう」という、2つのSDGsを両立させなければなりません(図2)。

伊勢市は、獣害をスマートフォンから報告できる鳥獣被害予防アプリを運用しています。
地域が主役!「ホカクン檻管理の会」の発足
伊勢市ではこれまでも対策を進めてきましたが、宮山地区ではより積極的な取り組みが始まっています。令和7年7月、地域住民が主体となった「ホカクン檻管理の会」が発足しました。 サルの群れを捕獲するためには、まず檻を「安全な場所」だと認識させる「餌付け(えづけ)」が必要です。会の皆さんは、3班体制の当番制で、1年以上にわたり毎日の清掃や餌の準備を続けています。専門家である兵庫県立大学の山端直人教授からも、「被害は必ず減らせる」「焦らず辛抱強く」というアドバイスをいただき、地域一丸となって活動しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)でサルの動きを科学する
今回のプロジェクトの大きな特徴は、最新のテクノロジーを活用している点です。 まず、一時的に捕獲したメスザルにGPS首輪を装着し(図3)、群れの行動を1年間にわたって調査しました。その結果、サルたちは季節や気温によって、高速道路を挟んで北と南の決まった範囲を広く移動していることが分かりました(図4)。このデータに基づき、最も効果的な場所に大型檻を設置することができました。

この首輪は一定時間ごとにGPSデータを記録します。電波を出しており、
定期的に蓄積されたGPSデータをダウンロードすることにより、行動範囲を特定することができました。

令和7年9月から令和8年5月までの行動範囲を見ると、高速道路を挟んで決まった範囲を広く行き交うことが分かりました。
さらに、この檻にはインターネットを活用した「ホカクンシステム」が搭載されています。遠隔監視カメラや自動通知機能により、離れた場所にいてもスマートフォンの画面から檻の中の様子を確認でき、適切なタイミングで遠隔操作による捕獲が可能です(図5)。

多くのサルが捕獲用檻に入ったり近づいている様子が伺えます。
サルの習性を考えた工夫と今後の展望
檻の構造にも工夫があります。サルは「相席」を嫌う習性があるため、檻の中に棚を設置して「2段構造」に改修しました(図6)。これにより、同時に多くのサルが食事を楽しめるようになり、檻の中での滞在時間も目に見えて増えています。
調査の結果、この群れには150頭以上のサルがいることが判明しました。これまでの「追い払い」だけでは解決が難しいため、令和8年度からはシステムを最新鋭に更新し、群れ全体の数を管理する「捕獲計画」を本格的に実行する予定です。

餌を立体的に配置することにより、習性によってより多くのサルが檻の中に入るようになりました。
おわりに:共生できる環境をみんなの手で
獣害対策は、地域の忍耐強い努力とテクノロジーの融合によって進化しています。しかし、最も重要なのは「サルを里に引き寄せない」環境づくりです。食べ残した果実を放置しないなど、私たち一人ひとりの日頃の心がけが、人と動物が共生できる持続可能な社会への第一歩となります。
もっと詳しく知りたい人への参考資料
「三重県食文化事典」(大川吉崇 著/創英社)… 蓮台寺柿の300年の歴史が分かります。
「三重県の獣害対策」(三重県公式サイト) … 三重県全体の取り組みが紹介されています。
「三重県におけるニホンザル被害管理と個体数管理の現状と課題」(山端直人ほか 著/「霊長類研究」第34巻)… 今回のアドバイザーである山端教授らの論文です。