細菌を活用して未利用な植物資源からバイオ燃料を生産する

  • 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

〈教育学部・教育学研究科〉市川 俊輔(講師)

 環境とエネルギーの課題の原因の一つとして,化石資源に大きく依存した社会システムが挙げられます。化石資源の埋蔵量は有限です。化石資源の消費により放出されるCO2は,地球温暖化の主要因とされています。私は,地球上に大量に存在し再生可能で地球温暖化への寄与の小さい資源である植物茎葉部(セルロース系バイオマス)を活用する技術について研究開発することで,環境とエネルギーの課題の解決に貢献したいと考えています。私たちは化石資源の多くを液体燃料として利用していますので,特に地域社会に豊富に存在する稲わらなどセルロース系バイオマスから液体燃料(バイオ燃料)を生産する技術について研究しています。燃料に付加価値をつけることは難しいです。従って,バイオ燃料を社会実装できるものにするためには,現在の液体燃料と同等以下まで価格を小さくする必要があると考えています。現状のバイオ燃料生産技術は複数のコストの大きい過程を有しています(図1)。

図1セルロース系バイオマスからのバイオ燃料生産の過程
【図1】セルロース系バイオマスからのバイオ燃料生産の過程
これまでの技術のうち,セルロースの糖への分解過程や,エタノールの蒸留による回収過程は,特にコストが大きい。

 現行のバイオ燃料生産技術で用いられるセルロース系バイオマスの酵素分解反応は効率が悪いです(図1)。私は,土壌中に存在するセルロース系バイオマス分解力が高い細菌Clostridium thermocellumのセルロース分解メカニズムを明らかにすることは,バイオ燃料生産の効率化につながるのではないかと考えています。この細菌は70以上の多様な分解酵素を状況に合わせて調節して分泌したり,また小さい泡を作ってその表面にこれら分解酵素を集めて働かせることで,セルロースを効率よく分解しているようです(図2)1,2)

図2セルロース分解細菌
【図2】細菌C. thermocellumによるセルロース分解メカニズム
(a)C. thermocellumの電子顕微鏡写真
(b)培養液中に存在する小胞の電子顕微鏡写真
(c)小胞とそこに結合している分解酵素の電子顕微鏡写真 黒点は分解酵素の存在を表す。
(d)予想されるC. thermocellumのセルロース分解メカニズム

 特定の分解酵素を足してこの細菌を培養することで,セルロースの大部分を糖に分解できることもわかってきました(図3)3,4)

図3セルロース分解細菌
【図3】細菌C. thermocellumによるセルロースからの糖生産
特定の酵素を足してセルロース分解細菌を培養すると,セルロースの大部分を分解させることができる(左図)。
100 g/Lセルロースを分解して,約70g/L の糖(グルコース)を生産できる。
実線は酵素添加条件,点線は酵素非添加条件での糖濃度を表す(右図)。

 また加えて,抜本的な生産コスト低減を可能にするために,細菌を培養することのみでセルロース系バイオマスから液体燃料を生産する技術の開発に取り組みました。高級アルコールはディーゼル燃料として利用することができます。近年,細菌が高級アルコールを合成するのに必要な遺伝子群が同定されました5)。私はこのセルロース分解細菌への遺伝子導入系の立ち上げに成功し,高級アルコール合成遺伝子をこの細菌に導入することができました。遺伝子導入されたセルロース分解細菌は,セルロースを利用し高級アルコールを生産することを確認しました。また,主要なバイオ燃料のバイオエタノールは水に溶けるためエネルギーをかけて蒸留して回収する必要がありますが,水に不溶な高級アルコールは培養液に重ねた油層から直接回収できることを確認できました(図1,4)6)

図4高級アルコールを生産するセルロース分解細菌の開発
【図4】高級アルコールを生産するセルロース分解細菌の開発
開発した細菌はセルロースを利用して,水に溶けない燃料化合物(高級アルコール)を分泌する。

 以上の通り,私は細菌のことをよく知って,バイオ燃料生産など環境に配慮した技術開発につなげられるよう,研究に取り組んでいます。

参考文献

  • Nataf et al. PNAS. 2010. 107:18646-18651.
  • Ichikawa et al. FEMS Microbiol. Lett. 2019. 366:fnz 145.
  • Prawitwong et al. Biotechnol. Biofuels. 2013. 21:184.
  • Ichikawa et al. J. Biosci. Bioeng. 2019. 127:340-344.
  • Schirmer et al. Science. 2010. 329:559-562.
  • Ichikawa and Karita. FEMS. Microbiol. Lett. 2015. 362:fnv202.

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