2特集
環境座談会「三重大学の3R+を考える」
- 17 パートナーシップで目標を達成しよう
日 時:令和元年7月23日(火) 13:00~16:00
場 所:三重大学三翠会館
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駒田 美弘
三重大学長(最高環境責任者)
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梅川 逸人
三重大学理事(情報・国際・環境担当)・副学長
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磯部 由香
教育学部・教育学研究科 教授
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久保 雅敬
大学院工学研究科・工学部 教授
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梅崎 輝尚
大学院生物資源学研究科・生物資源学部 教授
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松岡 拓磨
生物資源学研究科 院生
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中西 友恵
環境ISO学生委員会第13期副委員長(生物資源学研究科 院生)
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奥田 義勝
環境ISO学生委員会第14期3R班長(生物資源学部 4年)
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有冨 啓修
三重県環境生活部 廃棄物対策局 廃棄物・リサイクル課長
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山本 昌也
三重大生活協同組合 専務理事
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瀧澤 慎一
辻製油株式会社 経営企画本部 総務部 課長
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籠谷 和弘
辻製油株式会社 辻H&Bサイエンス研究室 次長
梅川:環境座談会を始めます。最近は4Rとも言われていることから,多方面からこの3Rプラスをお考え頂ければと思います。
駒田:座談会ですから,常日頃から考えていることを自由にお話し下さい。よろしくお願いします。
自己紹介
磯部:教育学部の磯部です。調理科学会と家政学会に所属しています。調理科学会は食品を扱っており,家政学会は環境分野もあり,近年ではSDGsの達成に向けての研究が多くなっています。教育学部家政教育講座に所属し,小学校教員や中学,高校の家庭科教員を養成しています。
久保:工学研究科の久保です。専門は高分子合成です。
梅崎:生物資源学研究科の梅崎です。国際環境教育研究センターの環境ISO推進部門長をしています。
松岡:生物資源学研究科資源循環学専攻修士2年の松岡です。プラスチックの代替物として,野中先生の研究室で,新たなマテリアルを作る研究をしています。
中西:生物資源学研究科共生環境学専攻修士1年の中西です。環境ISO学生委員会の副委員長をやっていました。気象学研究室で気候の研究として,アフリカの積乱雲が東アジアに与える影響を調べています。
奥田:生物資源学部共生環境学科4年の奥田です。環境ISO学生委員会では3R活動Reduce(廃棄物の発生抑制),Reuse(再使用),Recycle(再生利用)を指した活動のこと。
大量生産・消費・廃棄から,適正生産・消費・最小廃棄といったパラダイム転換が求められ,2001年には循環型社会形成推進基本法が施行され,2002年より,毎年10月を「3R推進月間」と定め,さまざまな普及啓発活動が行われている。 を中心に取り組んでいました。農地に鹿が侵入したらドローンが自動的に認識して追い払う獣害対策を研究をしています。
有冨:三重県廃棄物リサイクル課の有冨です。廃棄物の問題も含めさまざまな課題がありますが,県としても新たな取り組みを進めていきたいと思っています。
山本:三重大学生活協同組合専務理事の山本です。店舗の営業や生協の活動を通じての環境配慮など,参考にさせて頂きたいと思っています。
瀧澤:辻製油株式会社で総務を担当しています瀧澤です。弊社は地域資源を使った環境保護活動などの事業を幅広く展開しており,私は連携事業を担当しています。
籠谷:辻製油株式会社の籠谷です。三重大学出身で,学生時代は梅川先生にご指導頂きました。10年程前から三重大学内に研究室を開設し,専属で研究に携わっています。
本学の資源循環の3R活動のあゆみと特徴
梅崎:本学の活動として,これまで環境ISO学生委員会が取り組んできた「3R活動」について紹介します。
1.Reduce:ごみの発生抑制
レジ袋削減活動として平成19年12月1日に学生教職員全員を対象にエコバッグを配布し,その1ヶ月後に生協でレジ袋を有料化しました。その結果,レジ袋を95%削減しました。その翌年,レジ袋を置かない日本初のコンビニエンスストアが学内にできました。最近,全国でレジ袋有料化などの話がありますが,本学ではすでに10年前から取り組んでいます。
大学には,全国各地から学生が来ます。出身地毎に分別方法が異なっていることに加え,津市の分別と大学の事業系廃棄物としての分別の違いに,環境意識の高い学生ほど最初は混乱します。そこで「できるだけ分かりやすく分別してもらおう」と,学内のごみ箱の改良を重ね今日の形となりました。
2.Reuse:再利用
「卒業生が大学に自転車を捨てていく」問題を解決するために,「放置自転車対策活動」として,放置自転車を回収,点検修理,留学生へ譲渡する取り組みをしています。
卒業生の物と思われる家具・家電の町屋海岸への不法投棄問題解決のために,不用となった家電製品を綺麗に掃除し,無償で後輩に譲渡する活動が「リユースプラザ」です。
不要となった本を回収し必要な人に提供する「古本市」を年に2回開催しています。
3.Recycle:資源再生
古紙回収コンテナを3ヵ所設置し,トイレットペーパーとして還元しています。
生協学生委員会と共同し,リ・リパック容器の表面に薄いフィルムを圧着し,リサイクルを容易にしたもの。
使用後に表面フィルムを剥離することにより,洗浄をせずにそのまま回収・リサイクルができ,ごみの量が通常の1/20程度となる。の回収率を上げる活動に取り組んでいます。
エコキャップペットボトルのキャップのこと。
環境ISO学生委員会では,その売却利益をもとに発展途上国の子ども向けワクチンを送る支援活動を目的に回収し,市内の業者へ譲渡している。回収活動に取り組み,市内の業者を経由して発展途上国へのワクチンなどの支援活動に寄与しています。
女子学生の一人が「落ち葉を資源として堆肥化したい」と始めたキャンパス内の落ち葉の堆肥化活動が今も根付いて続いています。
国と県の動き
梅川:プラスチックごみを減らす政策は進んでいますが,なかなか削減は困難な状況です。また,平成12年に食品リサイクル法が制定され,最近では5月末に食品ロスの削減の推進に関する法律が公布,6ヶ月以内に食品ロスに関する削減の推進計画が出されますが,プラスチックと並び食品もリサイクルは進んでいません。特に,家庭系食品廃棄物のほとんどがリサイクルされず廃棄されている状況です。三重県としての取り組みをご紹介下さい。
有冨:まず,三重県が取り組む3Rの推進と地域循環圏の形成についてお話します。食品廃棄物の畜産飼料化として,日本酒造メーカーの酒かすを養豚業者の飼料にする取り組みを仲介し,さらにその豚のブランド商品化に取り組んでいます。プラスチックのリサイクルでは,使用済プラスチックの排出者と利用者のマッチング等を推進しています。一言でプラスチックと言っても,一般廃棄物の場合は容器包装プラスチックや不燃物系プラスチックなどさまざまな物があり,性状が悪く汚損している場合もありますが,産業廃棄物として工場などから排出される廃棄物は比較的素材が安定しています。自社で再利用する事も大事ですが,それが産業廃棄物として処分されている状況があれば,その排出側と利用側をマッチングするモデル的なケースを作りたいと考えています。次に,使用済小型家電の回収体制構築支援として,東京オリンピックのメダルプロジェクトに倣い,再来年開催する三重とこわか大会のメダルを不用となった小型家電から作製する取り組みの下準備をしています。
次に,不法投棄を許さない社会づくりの推進についてお話します。残念ながら三重県は不法投棄がよくあり,その不法投棄防止のための取り組みとして,業者の監視・指導業務にタブレットを用いて,監視・指導システムのリモート利用を行い業務の効率化を図っていくことを予定しています。また,ドローンを活用して不法投棄現場を測量し,全体像を把握して迅速な指導につなげています。
次に,行政代執行による環境修復についてお話します。産業廃棄物が不適正処理され生活環境保全上の問題がある4つの事案について,環境修復対策をしています。
最後に,食品ロスについて少しお話します。新聞などでは年間600万トン以上の食品ロスがあると報道されていますが,三重県ではその食品ロスの実態が掴めていないためまず調査する必要があります。具体的には,ごみ袋の中の食品ごみについて,賞味期限内か過ぎているか,残飯量はどれぐらいか,実質的な調査をし街中と田舎との違いなどを見たいと思っています。まず実態を把握する必要があります。
松岡:僕はコンビニでアルバイトしています。例えば,節分の恵方巻きは報道の通りロスが多いです。売り上げに関して業務命令があり,仕入れせざるを得ない状況がありました。廃棄率はすごく高くて,まだ食べられる物をごみ袋に入れる事に対して心が痛くなる現状があります。
山本:店舗ではおにぎりやお弁当を販売しており,賞味期限の切れる何時間か前には廃棄します。食堂では食材や食べ残しなどを廃棄します。食材で残った物は次の日に持ち越せないため,廃棄します。廃棄が出ず,なおかつ欠品状態が無いように,仕入れの精度を上げる努力をしています。
梅川:食品リサイクル法が適用される前の食品リサイクル率は約30%でしたが,最近では46%と,5割近くに増えています。20年程前と現在で廃棄食材の処理の違いはありますか。
山本:食堂では廃棄食材をコンポストに投入していましたが,今は廃棄物量がコンポストを稼働する最低量に満たず電源を切っています。売店の廃棄量も減っていますが,さらに利用状況データの分析をしながら,仕入れ数を調整し廃棄になる量を削減していきます。
籠谷:植物油に関しては,20年前に比べて生産量は変わっていません。昔は,食用油は家庭で揚げ物などによく使われ,家庭の廃油量は多かったのですが,最近ではそれが外食産業や総菜などに変わってきています。スーパーでは総菜の揚げ物などによる廃油が多く出るので,回収業者と連携してペンキの塗料などにリサイクルしています。油に関しては生産量や消費量は大きく変わらず,使用場所が変わったことから,家庭からの排出量は減少しています。
瀧澤:社会責任として食品ロスに対する考え方は厳しくなりました。資源枯渇の現状を考えれば,少量を販売して売り切れたら終わりとするとよいのかもしれませんが,利益を追求する企業としては,収入を得る必要もあります。そのためにもPOSシステムなどをうまく活用していけば,食品ロスは減っていくと思います。
奥田:AIやビッグデータをうまく分析に活用し,需要と供給の最適化ができれば環境面でも役に立つと思います。
コーヒーブレイク
梅川:ここでコーヒーブレイクを。ネットなどで市販されている脱プラ製ストローを眺めながら飲み物をどうぞ。学長は,松岡君が制作したウッドストローでお飲みください。
松岡:私が開発したウッドストローです。見た目はまだまだですが,今後改良していきます。
駒田:この中で一番高価なのはどれかな。
松岡:ステンレス製ストローが一番高価で,Amazonで6本セットで1,200円でした。プラストローが1本2円,最近流行っている紙ストローは ピンキリですが,約4~10円です。私が開発してウッドストローは,現時点で原材料費は0.5円程度,組成を変えてさらに下げる余地もあり,十分安価になると思います。
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コーヒー粕を使ったストローの開発をしています。
木製ストロー「ウッドストロー」がウッドデザイン賞2018受賞
利害関係者や地域社会の動向について
山本:三重大学生活協同組合の取り組み事例を紹介します。
リ・リパックは,生協食堂で製造販売しているお弁当や丼の容器で,使用後に内側のフィルムをめくり,洗浄せずリサイクルできます。学内に回収ボックスを設置し,環境ISO学生委員会の皆さんにご協力頂いて回収しています。年間の販売数は7万7000個,リ・リパック容器の回収数は2万9000個弱で回収率37.2%です。回収率80%の大学もありますので,さらに頑張りたいと思います。
大学生協全体で,SDGsの達成に向けて取り組んでいます。今までの活動に確信を持って,さらにSDGs達成のための取り組みを推進していきます。
6月には,三重大学の教室などを借りて,大学生協連合会が主催する「全国環境セミナー」を開催しました。全国から環境活動に取り組む大学生協学生委員会のメンバーが150人程集まり,これから頑張っていく取り組みを「三重宣言」としてまとめました。今後も,できる事を探しながら取り組んでいきます。
瀧澤:辻製油株式会社の取り組みを,簡単に紹介します。
三重県松阪市に本社を構え,食用油を基幹事業として70年以上,事業を進めています。三重大学の中にも辻H&Bサイエンス研究室を事業所として構えています。関連会社として,環境保護を目的として松阪木質バイオマス熱利用協働組合を創業し,うれし野アグリ株式会社が連動した事業展開をしています。
製油事業,機能性事業,アグリ事業でそれぞれ食用油,レシチン,天然香料などを使った事業展開をしています。例えば「ゆず」ですが,従来廃棄していた皮から香料を抽出して「ゆずオイル」とし,副産物として今まで捨てられていた物に価値を持たせるという事業形態を,ネクストビジョンとして進めています。
輸入原料の加工を基盤とする第一創業では,製油事業で弊社コーン油は国内トップクラスの生産量を誇っており,いろいろな加工品に使われています。また,機能性事業では,始めて工業的な高純度の粉末レシチンの精製に成功し,このシェアも国内トップクラスです。
国内資源を基盤とする第二創業では,間伐材・製材端材,地域連携した生産活動,植物工場「うれし野アグリ」プロジェクトを3つの主とした柱として展開しています。1つ目は,地域振興施策としてアグリ事業部。2つ目は,産学官連携として三重大学との連携事業や植物工場「うれし野アグリ」。3つ目は,環境保護活動として木質バイオマス熱利用事業です。 従来,弊社工場では化石燃料を使用していましたが,現在は製材端材からのバイオマスエネルギーとして蒸気燃料を使用しています。山が多い松阪市の未利用間伐材をチップとして燃焼し,蒸気を生産・販売する事業に参画し,弊社の食品加工技術と用地,地元企業株式会社浅井農園のトマト栽培ノウハウを活用し,三井物産株式会社が経営管理,イノチオアグリ株式会社が施設管理を行う4社共同プロジェクトを立ち上げています。未利用間伐材から蒸気エネルギーを作り,弊社工場で蒸気を使用し,排熱蒸気と温水をトマト生産施設で使用するエネルギー循環型農業モデルを構築しています。資源を持て余す事なく使う事業展開を進めると共に,地域の方々の雇用も多く生み出しています。
三重大学の参加教員・院生の研究成果
久保: 環境を考慮した高分子合成について紹介します。インターネットで「環境とプラスチック」と画像検索すると,海や川の汚染,動物の誤飲誤食イメージや,マイクロプラスチック環境中に拡散した微小なプラスチック粒子であり,特に海洋環境において極めて大きな問題になっている。主に,海洋を漂流するプラスチックごみが紫外線や波浪によって微小な断片になったものを指す。 など,あまりよい印象はありません。現在は,スターバックスのプラ製ストローの廃止,ユニクロのプラ製ショッピングバッグの紙袋への切り替えなど,プラスチックの使用を削減する風潮があります。
状況的にはフロンと似ています。1930年頃から冷蔵庫が家庭に普及し始めましたが,当時は冷媒に腐食性・毒性の強いアンモニアガスを使用しており,海外ではガス漏れによる死亡事故事例など,大変便利ですが非常に危険な物でした。それに対し安全な冷媒がフロンで,冷蔵庫やエアコンなどに普及していきました。ところが1980年頃,成層圏でオゾン層を破壊し地表に降り注ぐ紫外線が増えることが分かり,フロンは人類の敵となりました。しかし,今更冷蔵庫やエアコンを無くせないので,科学者は冷媒を工夫していきます。第一世代の冷媒は,塩素によりオゾン層を破壊します。第二世代の冷媒は,オゾン層を破壊しませんが地球温暖化要因となる温室効果ガスになりました。第三世代の冷媒は,オゾン層を破壊せず地球温暖化の要因となる温室効果係数も小さくなり,現在は地球を守る冷媒になっていると言えます。
フロンの問題を解決してきたように,環境を守るプラスチックもあります。リサイクル,バイオプラスチック,生分解性プラスチックなど多く研究されている中で,私は生分解性の高分子吸収体に着目しています。
高分子吸収体は紙おむつに使用されている粉末で,純水だと1gあたり1kg,1L程度,塩分の影響で尿だと300~500cc程度を吸収します。これは焼却廃棄しますが,生分解性を付与すれば埋め立てができ燃料が不要となります。現在市場に提供されている生分解性高吸水性ポリマーは高価なため,安価な素材であるポリアクリル酸ナトリウムに生分解性を付与する研究をしています。高吸水性高分子はずっと繋がっている高分子で,このところどころにバクテリアの好むエサを入れ素を短くし,騙して一緒に食べてもらう共同研究をメーカーと行っています。これは近い将来,SDGsの達成に向けた新材料の高分子として,環境を守るプラスチックとなります。
松岡:プラスチックは非常に軽量で高い成型加工性を持ち低コストであることから,2015年現在,1年間で2.8億tの製品が作られています。今,非生分解性による深刻なごみ問題が注目されています。プラスチックは光や物理的な分解によってマイクロプラスチックとなり,さまざまな海洋生物に悪影響を及ぼしています。サイエンスなどの雑誌に出ているいろいろな論文によると,海洋中のプラスチックごみの総量は2.5億tあり,国毎の海洋ごみ流出量は中国などアジア諸国がトップ10を占めています。アジア諸国が多い理由は,海の近くでごみを埋め立てていることや,人口増加によってごみの量が増えていることなどとされています。海洋ごみの種類は,プラスチック片や漁業用網の割合が半数以上を占め,実はプラ製ストローは約0.3%です。
ではなぜプラ製ストローを無くそうとなったのか。ある海洋学者がウミガメの鼻の中にプラ製ストローが刺さっている動画をYouTubeで投稿し,その反響でプラ製ストロー廃止が加速されたと言われています。現在,日本ではすかいらーくグループのガストなどがプラ製ストローを他の物に代替しており,世界ではディズニーワールドやマクドナルドも廃止に向けて動いています。
脱プラ製ストローにはたくさん種類があります。パスタストローは,茹でればパスタです。近年人気なのは紙ストローで,紙を巻いて作られています。他にもポリ乳酸や麦わら,ステンレス製ストローなどがあります。
こういう状況下で,私の所属する木質分子素材制御学研究室がどのように研究を行ってきたのかを説明します。3年ほど前に先輩が包装メーカーのザ・パック株式会社と紙袋の取っ手をPPや石油系から天然素材に置き換える共同研究をしていました。紙の原料であるセルロース誘導体を混練し,新素材として革のような紙袋の取っ手を開発する研究です。私は,平成29年から研究室に入り,植物性タンパク質である小麦グルテンと木粉を混ぜた新マテリアルの開発を行ってきて,修士課程進学と共に,取っ手の研究を引き継ぎました。昨年7月,初めて素材をストロー状に成形することができ,ウッドストロー開発に成功し,新聞の取材などで非常に高い評価を頂きました。昨年の11月からは,アルバイト先のコンビニから出るコーヒー粕を使ったストローの開発をしています。
木質ストローの作り方は,木粉とセルロース誘導体と水を混練し粘土状の素材を作り,中空状に押出成形します。これまでに作成した木質ストローは,増粘剤が水に溶けやすく,非常に耐水性に乏しい物でした。耐水性の付与と,木材利用推進・価格面からできるだけ木粉の量を多くすることなどが主な研究のテーマです。先ほど学長に使って頂いた物は,現在試作中の耐水化木質ストローです。
2100年までは人口増加に伴うプラスチック使用量増加により,海洋ごみの量も増加していくと言われており,プラ製ストローを代替するだけでは問題解決することは不可能です。今後の展望として,新たにボトルや包装容器,それこそ漁業用の網を私たちが開発した物で代替できればと思います。今回のテーマである3Rプラスというところでは,僕としてはRevolution,革命を起こしたいと考えています。
梅川:新素材について二つほど事例紹介頂きました。自治体ではプラスチックごみの現状はいかがでしょうか。
有冨:プラスチックごみのうち,ワンウェイプラスチックは削減する必要があると考えています。レジ袋については,既にスーパーで有料化の取り組みがなされていますが,コンビニやドラッグストアでは,今後の有料化の法整備により取り組みが必要となります。また,プラスチック製の弁当容器についてもワンウェイプラスチックであるため,取り組みが必要と思います。
磯部:家政教育講座でどのような教育をしているのかを紹介します。
「食生活論」では,1年生の初めに三重県環境生活部の方をお招きして出前授業として県内の食品ロスの現状について学びます。また,食品廃棄率や食品ロスに関する講義として,賞味期限や消費期限の考え方や,賞味期限が切れたらすぐ捨てるというその消費者の感覚が食品ロスを増やす,ということを学んでいます。
「理数・生活系教育領域特論」は大学院の科目で,今年度はごみ分別についての課題学習をしました。例えばプラススチックごみは,焼却炉の性能により分別しなくてよい自治体もあります。学生は,分別が大事というルールは理解できても,なぜ分別する必要があるのかが分からないため,実践に繋がっていないということが話題となりました。
「小学校専門家庭」では,ペットボトルの水とカセットコンロを使って,いかに水とガスを少なく,ごみを出さずに調理できるかというエコ・クッキング身近な食生活からはじめるエコ活動。
環境を思いやりながら,「買い物」「調理」「食事」「片づけ」をすること。
エコ・クッキング」は,東京ガス(株)の登録商標です。のチーム対抗調理実習をしています。また,ジグソー学習で「食品ロスの現状と課題」「国の取り組み」「企業の取り組み」「消費者にできること」の4つのテーマを調べまとめることで,エコや食品ロスに関する意識を持つように取り組んでいます。学生は,調べてまとめ,理解することはできますが,実行ができません。「分かる」と「できる」の違い。そのギャップをどう埋めるのかが重要な課題です。
「消費者教育論」では,3Rや消費者市民社会,SDGsについて教育し,エシカル消費についても取り上げています。
「家庭教材研究」では,3Rや消費者の役割,SDG12のつくる責任つかう責任についても扱っています。
大学院生のテーマとして,「家庭科教育がどうSDGsに関わっていけるのか」という,家庭科における授業実践もあります。
「被服実習」では,服飾メーカーから布を提供して頂き,それを安く購入して実習しています。家庭生活ではごみが出ることがたくさんありますので,実生活の中の環境教育をしています。
家庭科の目標は,よりよい生活のために工夫する力を育成することです。学生や教員がどれだけ意識し,実践できる人がどれだけいるのかが課題です。
2030年に向かって実現するべき三重大学としての3R
梅川:本日は3Rについてお話頂きました。もうひとつプラスを考えるとしたら何があるでしょうか。本学は環境先進大学,環境の文化が根付く大学として,THE大学インパクトランキングにおいて,SDG12(つくる責任つかう責任)で国内1位,世界で31位になりましたので,プラスとして責任(responsibility)などどうでしょうか。このランキングではSDG13(気候変動に具体的な対策を)も国内5位,世界で73位になりました。SDG13のターゲットの中には,気候変動の教育をする事が組み込まれていますので,三重県と共同で温暖化セミナーを開催するなどの活動が高く評価されたと理解しています。
梅崎:教育は「分かる」と「できる」のギャップをどう埋めていくのかです。また,「足るを知る」を認識することが大事です。環境のことを考えて少し歩く,よい服を着たいけど自分はこれくらいでよい,など少し節約して我慢する。これだけの人口の中,お互いが少しずつ遠慮しないと地球は持たないので,できる範囲でやりましょう。
梅川:教育者としての取り組み方ですね。企業,生協さんはどうですか。
瀧澤:社員教育は,まず基本的な意識づけから取り組みます。根幹,現状,その先をトータルで意識づけできればよいと思います。
山本:難しいかもしれませんが,商品の選択基準がエシカルであるとか,環境に優しい物を選ぶのがよいという価値観を作っていきたいと思います。商品を通じて,学生の皆さんと一緒に「分かる」と「できる」のギャップを埋めていきたいと思います。
梅川:本学は環境教育を一生懸命やっているという感覚はありますか。
奥田:環境先進大学として,環境を絡めた授業を多く受けてきたので,環境の意識が高い大学と感じています。
梅川:環境を考えて新しい素材を開発していこうという意欲は湧きますか。
松岡:僕は環境に対しての思いが強く,それこそプラスチックが本当に嫌いになってしまい,使うことに罪悪感があります。これだけ環境について深く考えることができるのは,授業との関係は深いと思います。
駒田:大学がやるべきは,教育と研究です。プラスRとして,例えば決心(resolution)は,1日に1つか2つ行動を決心をすれば,いろいろな事ができます。次に,研究(resarch)です。レジ袋廃止やごみ分別,放置自転車対策などたくさん活動するのはよい事ですが,将来は,活動しなくても大丈夫な大学にならないといけない。君たち学生が10年後,20年後にパワーを発揮しよい社会に変えていって下さい。では,外国はどうか。例えばヨーロッパのハンガリーは,ほとんどが風力発電などの再生可能エネルギーです。国によって違うので,日本はどういう立場なのか,これでよいのかと考えて下さい。外国に1日でも住むと価値観が変わるので,そういう経験もして下さい。これからの社会は,若い人の双肩にかかっていますが,我々もそう簡単にはリタイヤせず,君たちに引き継げるよい社会にします。開発途上国やアメリカ,ヨーロッパなどの世界を見てくると,より日本の良さと悪さが分かります。SDGsは世界の目標ですので,日本の大学として何をすべきかを考えて下さい。
梅川:最後は教育と研究が大事だということになりました。意義あるディスカッションだったと思います。外部から,辻製油さん,三重県さん,生協さんにご参加頂きました。最後に一言ずつ,お願いします。
有冨:自分が学生だった頃に比べると今の学生さんはしっかりしているなと率直に思いました。こういう方々に三重県庁に入って欲しいです。今後もこういう教育や研究を続けて頂ければと,そう感じました。
籠谷:20年前は三重大学生でしたが,今の学生さんに比べて幅広く物を考えるなどできていなかったと思います。社会人になって分かることもたくさんあるので,大学で教育と研究を受けた方が社会に出て有意義に活動できる受け皿を企業として作らなきゃいけないということで,今後も大学との勉強をお願いしたいと思います。
山本:学生の皆さんが在学中の4年間の教育や生活の中で,環境や社会に優しい学生になり,社会に旅立って頂ければと思います。私たち大学生協は,商品とサービスの部分だけにはなってしまいますが,その成長をバックアップしたいと思います。
駒田:本学の学生に対しては,企業の社長さんからは,大人しすぎる,冒険しない,安定志向である,自分のテリトリーに閉じこもり他のことに興味を持たない,と言われることもあります。勉強や研究以外にもたくさん経験して,広い視野を持って欲しいと思います。人生は長いので,曲がり角もあるし,寄り道したり,曲がりくねったり戻ってもよいので,そういう意味でのキャリア教育,キャリア発達をして欲しいと思います。
梅川:本日はありがとうございました。