6環境研究
人とモノがつながる世界-無線技術の応用に関する研究-
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 11 住み続けられるまちづくりを
〈大学院工学研究科・工学部〉羽多野 裕之(准教授)
1.人とモノがつながる世界って何?
突然ですが皆様はSociety 5.0サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会(Society)。
狩猟社会(Society 1.0),農耕社会(Society 2.0),工業社会(Society 3.0),情報社会(Society 4.0)に続く,新たな社会を指すもので,第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。という言葉をご存知でしょうか。日本政府が提唱する未来社会のコンセプトです。狩猟社会(Society 1.0),農耕社会(Society 2.0),工業社会(Society 3.0),情報社会(Society 4.0)といった人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5の新たな社会として,2018年に科学技術基本法で定められました。これまでの情報社会 (Society 4.0)では,情報が単独で存在していましたが,それらが互いに連携します。IoT(Internet of Things)IoTとは「Internet of Things」の略で,日本語では「モノのインターネット」と訳されている。現実世界の物理的なモノに通信機能を搭載して,インターネットに接続・連携させる技術のこと。で全ての人とモノがつながり,今までにない新たな価値を生み出すことで,社会に立ちはだかる課題や困難を克服していきます(図1)。
昨今,特に私は次世代交通システムをターゲットとしています。交通社会においても,先端技術を取り入れることで交通事故数低減を始めとして,交通渋滞緩和や過疎地域での効率的な移動手段の確保などによって低炭素社会の実現につながります。交通社会では,道路や車,人などが往来します。これらが互いに連携する必要があります。無線技術の出番です。
2.無線で実現可能な仕事
「無線」という言葉を大辞泉で調べると,“有線と異なり,電線を架設しないこと”と出ます。無線機や携帯電話のような無線通信が一般的にはイメージされますが,そのほかにも,無線ポジショニング,無線センシングなども無線で実現される技術です。既に交通システムではこれらの技術が応用されています。例えば,無線通信では路車間/車車間通信がありますし,無線ポジショニングではカーナビで代表されるようなGNSS (Global Navigation Satellite System)ポジショニングがあります。無線センシングは車両前方の障害物を検出するレーダが代表的です。これらが今よりもさらに高性能化することで,さらなる高度なサービスが実現可能となります。その一助となれるように我々通信工学研究室では三重の地から世界へと研究成果を輩出しています。
3.取り組み例
ここではわかりやすい例として無線ポジショニングを取り上げます。GNSSは測位衛星を用いた無線ポジショニングシステムの総称であり,GPS (Global Positioning System) は皆様にも馴染みのある技術だと思います。上空に飛ぶ測位衛星からの信号を受信し,衛星との距離を計測し,地球上の自分の位置を推定する技術です(図2)。標準的な手法による位置推定精度は十数mと言われていますが,図2のように街中では受信状況が悪くなるため精度が劣化します。さらなる安定化,正確化を目指し,研究開発が進められています。日本も2010年に準天頂衛星「みちびき」が打ち上げられ,2023年までに7機体制になる予定です。
本学通信工学研究室でも本研究を加速させるため,2019年にGNSS基準局を設置し無線ポジショニングの高性能化に取り組んでいます。この基準局を利用すると三重大学から十数kmのエリアにおいて,理論的には数cm精度のポジショニングが可能となることが期待されています。この高確度・高精度ポジショニングにより,車輌の安全運転支援や歩行者支援,交通流把握に基づく効率的な移動による安全快適・低炭素社会 平成19年度の「環境白書・循環型社会白書」から提唱された用語。地球温暖化の主因とされる二酸化炭素を指標として,最終的なCO2排出量が少ない産業・生活システムを構築した社会を指していく社会のこと。 化の実現や,農作業機器の自動化支援を通じた食物増産・安定確保によるコスト削減,環境負荷 環境に与えるマイナスの影響を指します。環境負荷には,人為的に発生するもの(廃棄物,公害,土地開発,戦争,人口増加など)と,自然的に発生するもの(気象,地震,火山など)がある。低減などを目指します。
【図2】測位衛星によるポジショニングと課題