三重大学 環境・SDGs報告書2021

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

フードロス削減を目指した食品の退色・変色遅延技術の開発

  • 2 飢餓をゼロ
  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 12 つくる責任つかう責任

〈教養教育院〉大井 淳史(教授)

 日本におけるフードロスは年間約640万トンであり,この量は世界食糧計画(World Food Programme)が支援する食料の総量380万トンをはるかに超えるものです。フードロスは単に「食べ物なのにもったいない」というばかりでなく,廃棄物を処理するために環境に大きな負荷をかけることになるので,持続可能な社会の実現のためには早急に削減しなければなりません。大量のフードロスというと,食品を販売する側の問題や消費者行動ばかりに目が行きがちになりますが,実際は製造・保存技術,流通形態や商慣習などの様々な要因が複雑に絡み合って発生するものです。現在,食品産業界,関係省庁および消費者が協力しあってフードロス削減に向けた様々な取り組みが行われています。筆者らは,地域企業とのいくつかの共同研究において,フードロス削減に貢献するような賞味期限延長技術の開発を行ってきました。そのひとつを紹介します。

低糖プレザーブスタイルのイチゴジャムの退色・変色遅延

 ジャムは果実を大量の砂糖とともに煮詰めて,水分活性を低下させることによって常温保存を可能にした食品です。ジャムがとろみを持つのは,植物の果皮に含まれる多糖類ペクチンが糖と酸の存在下で加熱されることによってゲル化するからです。消費者がイチゴジャムの品質を評価する際の指標として,味や香り,フルーティーさ以外にも色があります。イチゴに含まれる赤色の色素はペラルゴニジン3-グルコシドと呼ばれるもので,一般的な条件下では退色の速い不安定な色素です。イチゴジャムが長期にわたって深い赤色を保っているのは,低pHや低水分活性であるからだけでなく,ペクチンに色素を安定化する作用があるからとされています。

 さて,昨今の健康志向によってジャムのような伝統食品においても消費者のニーズは多様化しています。糖度を下げることによってカロリー低減を狙った製品や,果実の形を残したプレザーブスタイルのもの,加熱時間を短くしてフルーティーさを強調した製品などが人気となっています。ところがこれらの条件でジャムを製造すると,果皮からのペクチンの抽出が不十分となり,室温保存の場合1ヵ月程度でも退色や変色が見られる製品になってしまいます。味や香りの点では全く問題ないのですが,一般的な消費者からは敬遠され,廃棄されることもあります。食品加工技術的には,クエン酸などを添加してpHを調整することや不足しているペクチンを食品添加物として補うことで対処ができますが,今回の開発技術においては,加熱条件を見直すことで,添加物を使用せずに退色・変色遅延効果が得られることが判りました(図1,2)。また,その開発過程のなかで色素に対する糖の挙動に興味深い事実が見つかりましたので,今後は学術的テーマとしても検討していく価値があると考えています。

図 1 左:従来の製法,右:新規制法 (R2.3撮影)
図 2 貯蔵中の色変化

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