三重大学 環境・SDGs報告書2021

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

三重大学演習林の取り組み

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

生物資源学研究科
紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター附帯施設演習林 渕上佑樹(准教授)

1.三重大学演習林の植生と生物多様性

 三重大学演習林は,三重県のほぼ中央を貫流して伊勢湾に注ぐ一級河川「雲津川」の源流を構成する森林です。江戸時代,藤堂氏が治める津藩の藩有林であったこの区域が明治維新後に国有となり,1949年に三重大学の附属演習林となってからは森林科学に関する研究と学生の森林演習を行うことを目的として,現在に至るまで維持管理されてきました。
 総面積457haの演習林内では,紀伊半島三重県中部の森林植生が保護・保全されており,天然生林と人工林の割合はおよそ6:4(全国の割合と同程度)です。天然生林の大部分がモミ,ツガなどの針葉樹とケヤキ,トチノキ,ミズナラ,ヒメシャラ,ミズメ,ブナ,カエデなどの落葉広葉樹による針広混交林であり,紀伊半島北部の代表的な森林植生となっています。特に,太平洋型のブナとモミ・ツガで構成される天然生林は学術的に貴重であり,生物多様性を保持した重要な森林として保護対象とされています(写真1)。人工林の大部分はスギまたはヒノキの一斉林注1)で,部分的にアカマツ,カラマツ,クヌギの植栽が試みられています。また,一部には1810年植栽の樹齢200年を越えるスギの林分注2)もあります(写真2)。このような環境で多くの動物が生息しており,クマタカ,コノハズク,ヤマネ,ニホンカモシカなどの希少な動物の確認が記録されています。
 このように,多様な樹種によって構成され,豊かな生態系を育み,雲津川源流域の森林として多面的機能を発揮している演習林を保護・保全しながら地域社会や地球環境に貢献するために,近年取り組んでいる事例を紹介します。

写真1 モミ・ツガの天然生林

写真2 1810年植栽のスギ人工林

注1)皆伐跡地に一斉に植林して造った,単一の樹種の森林。単層林。
注2)樹木の種類・樹齢・生育状態などがほぼ一様で,隣接する森林とは明らかに区別がつく,ひとまとまりの森林。

2.コロナ禍におけるオンライン実習の開催

 新型コロナウイルスの影響により,演習林で行っている実習・演習の多くが中止または次年度への延期を余儀なくされました。この中で,教養教育科目として開講している「自然科学概論―森は生きている―」では,例年であれば演習林での2泊3日の宿泊実習となるところを3日連続でのオンライン実習へと変更し,中止・延期をすることなく開催することができました。
 本来であれば演習林内において行う林業体験(立木の伐採演習)については,演習林の職員が詳細な説明を交えながら丁寧に伐採する様子をアクションカメラによって撮影し,編集した動画を閲覧してもらいました。木を伐る感触や漂うスギ・ヒノキの香り,現場で担ぐ水分たっぷりの丸太の重さなどを体感してもらえなかったのは残念でしたが,一方で,現場では騒音で聞き取りづらいこともある職員による説明を,字幕付きの動画ではっきりと伝えることができました(写真3,4)。職員がチェーンソーで比較的大きな木を伐採する様子を,間近からの臨場感のある映像で伝えることもでき,参加した学生からは好評でした。
 オンラインではどうしても伝えられない部分がある一方で,オンラインならではの利点も見つかり,今後は現場での実習・演習の場においてもオンラインの利点をうまく取り入れた,進化した現地実習・演習を行っていくきっかけとなりました。

写真3 伐採演習動画(直径の計測) 

写真4 伐採演習動画(伐採)

3.林地残材,未利用材のバイオマス利用に向けた取り組み

 演習林のある津市美杉町には,丸太の売買を行う原木市場(有限会社美杉木材市場)があり,地域における木材流通の要として長年運営されています(写真5)。演習林からも間伐材や学生の実習・演習で伐採した丸太を毎年出荷しており,2020年度の出荷量(後述の未利用材も含め材積100m3超)は最近10年で最も多くなりました。
 この原木市場が地域の中心となって実施する,木質バイオマス発電のための燃料となる丸太を集める「木の駅プロジェクト」に,演習林も2018年度から参加し,いわゆる未利用材注3)と呼ばれる丸太を出荷しています(写真6)。集められた未利用材は近隣の木質バイオマス発電所等に持ち込まれます。
 木の駅プロジェクトによって,商品価値がなくこれまで山に放置されていた未利用材が買い取られる仕組みができ,森林を管理する森林所有者や林業家に収益が還元されることで,森林の保全につながっています。また一方では丸太(木材)という再生可能な資源を燃料とした電力が生み出されることで,地球温暖化の防止に役立っています。
 演習林からの未利用材の出荷量は2018年度は7.5tでしたが,2019年度は21.3t,2020年度は35.8tとこれまで順調に出荷量を増やしています。

写真5 津市美杉町ある原木市場の様子

写真6 出荷する未利用材の積材作業

注3)建築用の丸太としては品質が悪く,出荷のできない丸太(曲がったもの,割れたもの,大きな傷のあるもの)や根株など。

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