三重大学 環境・SDGs報告書2021

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

エネルギー問題解決のための流体工学研究

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

〈工学部〉髙橋 護(助教)

 東海地方では,今年の梅雨は平年より21日早く始まり,2日早く明けたそうです(気象庁ウェブサイトより)。水曜日あたりに今週末は晴れるかな?と思っていたら,金曜日になってみると土曜日は雨との予報になってしまっていた,反対に雨予報だったのに当日になってみるとあまり悪くない天気だった,なんてことも多々ありました。科学技術がよく発達した今日ですが,天気予報はどうも依然として不正確なままであるように思われます。結論を言ってしまえば,天気予報が外れるのは,大気や海洋の運動がそもそも「予測できない」現象だからです。

 「二重振り子」で検索してみてください。Wikipediaには日本語のページがあり,YouTubeには装置の動画があり,他にも多くの解説しているウェブサイトがあることがわかります。振り子が1つなら単振動なのでその運動を予測するのは簡単です。しかし振り子が2つになった途端,一貫しないばらばらのタイミングで右に左に複雑に運動の様子を変化させ,人間に全く予想もつかせない振舞いを示します。もう一つ面白いのが,振動の始まり方(どれだけ持ち上げて手を放すか)がほんのわずかに異なるだけで,時間が経つと運動の様子が全く別物になってしまうという性質です。これを「初期値鋭敏性」といいます。天気予報が困難なのもこれで説明することができます。つまり,長い時間先の状態まで予測するためには,現在の大気・海洋の状態を地球規模で,寸分の狂いなく特定できなければならないのです。

 この問題は私たちの身の回りにある,空気や水などが関わる場面のほとんどで発生します。では,人類にとって空気や水の流れの予測・理解は絶望的なのでしょうか。そうではありません。人類はこれまで実験装置や計算機を大きく発達させ,これにより「実際に流して調べる」ことが可能になりました。そしてその結果を人々の暮らしに役立てるための方法を提案するのが,私の専門である「流体工学」という分野です。その中で私が取り扱っているのは噴流という,小さな穴から空気・水が噴き出す流れです。エアコンから吹き出す風がもっともわかりやすい例の一つです。省エネルギーを考えると,エアコンから吹き出す空気はただちに部屋の隅々に行き届いてくれないと,いつまでたっても気温を調整できないまま電力を浪費してしまいます。私の研究では噴流の吹き出し方を工夫して,吹き出す空気と周りの空気が素早く混ざるにはどのようにすればいいのかを調べています。また流れの中で何が起こっているのかをつきとめ,それを踏まえて空気の混合を促進させる手段を考えたりもしています。

 繰り返しですが空気や水は私たちの身の回りのあらゆる場面に存在します。最近流体工学は,マスクでどれだけ唾液の飛散を抑えられるかの調査に役立ちました。噴流の研究結果も,意外なところでの大きな活躍を見せる日が来るかもしれません。

(左)様々な形状の孔(赤色矢印)から実際に気流を噴出させる実験装置,
(右)複雑な流れを容易に理解するために単純化する作業

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