6環境研究
再生可能エネルギー時代における木(木材)の役割
- 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 11 住み続けられるまちづくりを
- 15 陸の豊かさも守ろう
森 久綱(人文学部教授)
朴 恵淑(名誉教授・特命副学長;環境・SDGs)
安部大樹(北勢サテライト研究員)
私たちが当たり前に使えている資源やエネルギーが使えなくなったらどうなるのだろうと考えたことはありますか。1970年代の2度のオイルショック、97年の京都議定書(COP3)の採択、2008年前後での原油価格高騰、2011年の福島第一原発事故など,化石燃料から脱却しなくてはと考えさせられることが何度か現れては, 結局は使い勝手がよく,価格が比較的安い化石燃料に甘えてきてしまっているのが実状です。
しかし,環境と経済との調和の取れた持続可能な社会創生への国際的動きが台頭し,2015年9月の国連総会(サミット)でのSDGs(持続可能な開発目標)の採択, 同年12月にCOP21でのパリ協定書の採択によって,「誰一人取り残さない」持続可能な開発を目指すSDGsと「地球温暖化による気候危機」を解決するためのパリ協定とを併せた脱炭素社会を目指す機運が高まっています。
日本が脱炭素社会を目指すには,85.5%を占める化石燃料を再生可能エネルギーに替えることが必要不可欠になります(図1)。2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原発事故の経験を持つ日本は、原子力発電に頼るエネルギー政策から再生エネルギーへの抜本的転換が求められています。
図 日本の一次エネルギー供給構成(2018年度)
再生可能エネルギーは,太陽光,風力,地熱,小水力,バイオマスなどさまざまですが,共通する特徴として「小規模」に「分散」しているので,化石燃料に比べると効率が悪く,不安定というデメリットが指摘されています。しかし,そのデメリットも裏を返せば,「地域の資源」であり,「地域に雇用」を生む,環境問題の解決と地域経済の活性化に寄与するメリットが見えてきます。
特に,バイオマスは「生物資源」と訳され,生ごみや家畜糞尿,稲わらや木が該当しますが,モノづくりに使いやすいのは木(木材)です。箸から住宅まで幅広く使われている木(木材)はエネルギー源だけでなく,モノづくりの材料としても考える必要があります。例えば,木(木材)からバイオプラスチックやバイオエタノールを精製する技術開発によって,今後さらに普及できます。
しかし,木を育てる林業は明るい状況ではなく,木(木材)は,コンクリートや石油製品に代替され,1980年頃をピークに儲からない産業と認識されるようになり,多くの森林が放置されているのが現状です(図2)。
図2 原木価格推移
(出典:林野庁HPより筆者作成)
2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度が始まり,日本でも木質バイオマス発電所ができ始めたことで,長らく放置されていた森林に人の手が入るようになりつつあります。しかし,何十年もかけて育てた木をただ燃やすだけというのではエネルギー源としても,林業にとっても「持続可能」ではありません。木質バイオマス発電は「放置された森林の整備」という位置づけと共に,モノづくりで再び木(木材)が必要とされる将来に向けて,林業を見直していくことが,これからの脱炭素社会に向けた大きな転換点となります。
最後に,木(木材)をモノづくりに活用する意義を,カーボンニュートラルの観点から考えます。カーボンニュートラルとは,植物は光合成でCO2を吸収するので,その植物を燃やしても空気中にCO2を増やすことにはならないことから,植物をバイオマス燃料にする意義は,ゼロエミッションに繋がります。また,木(木材)は伐採後,住宅の柱や家具に姿を変えても,その形を保っている限り,炭素を固定していることになります。つまり,木製品を使うことは,森林以外の場所でも炭素を固定できるということなので,木(木材)は発電燃料としてカーボンニュートラルであるだけでなく,モノづくりの材料としても使え,なおかつ,炭素固定の機能も持つ脱炭素社会・カーボンニュートラル社会の形成に必要不可欠な役割を担います。