三重大学 環境・SDGs報告書2021

SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

ライドシェア型の地域公共交通施策の有効性に関する研究

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

〈地域イノベーション学研究科〉八神 寿徳(准教授)

 三重大学大学院地域イノベーション学研究科は,「研究指導を行うR&D教員」と「プロジェクト・マネジメント教育(PM教育)を行うPM教員」の2種類の教員が在籍しており,1人の学生に対してR&D教員とPM教員を配置し,教育・研究の指導を行う体制を採っています。そのような教育体制は国内の大学でも珍しく,タイプが異なる教員たちが挟み込むように教育する「サンドイッチ教育」が地域イノベーション学研究科の特徴です。

 PM教育では,自己の研究テーマの社会的意義や,将来の社会実装や実用化へ向けてどのように考え計画すべきかなどを学生と教員が一緒になって議論し考えることを通じて,課題を深く考察し解決策の立案からその実現までのマネジメント能力を持つ人材を養成することに取り組んでいます。

 ここでは,そのようなPM教育も受けて研究を行った博士後期課程の学生の研究内容を紹介します。

泉谷和昭さんは,国内の大手電機メーカを定年退職後,本研究科の博士後期課程に入学し,博士(学術)の学位を取得しました。泉谷さんが博士後期課程で取り組んだ研究テーマは『コミュニティ公共施策におけるインセンティブシステム活用に関する研究-有償ボランティア・ドライバーによる紀北町「あいのり運送」実証事業をとおして-』[1]です。

 三重県は南部地域での過疎と住民の高齢化が問題となっています。そのような地域の活性化や社会的・経済的活動の持続性構築を目指すさまざまな公共施策がありますが,その施策を定着させるためには地域の住民や関連する人々の自発的な参加・協力が欠かせません。とくに地域住民が運営側に協力するようなインセンティブ構造があれば有効に機能する可能性があるという点に泉谷さんは着目し,そのなかでも「有償ボランティア」という仕組みに焦点を当て研究を行いました。

 泉谷さんが研究の対象としたのは,三重県南部地域のひとつである紀北町にて平成30年に行われた有償ボランティア・ドライバーが参画するライドシェア型の地域公共交通施策の実現性を探る『紀北町「あいのり運送」実証事業』[2]です。同事業には三重大学の地域創生戦略企画室が参画し,泉谷さんはその部門の研究員としてシステム設計やデータ分析の分野でプロジェクト推進に参加しました。

 元々,ライドシェアは都市部においてその需要と供給を,情報通信技術を利用してマッチングさせるITビジネスとして確立されましたが,日本では本来の形式で運行できていません。しかし,過疎地域での公共交通課題の解決策として注目されています。三重県紀北町は,前述のとおり,過疎と高齢化が進んでいる地域で,町内のタクシー事業者も平成28年に撤退し,多くの交通空白地を抱えています。

 泉谷さんは,紀北町で実施された「あいのり運送」実証事業に協力したボランティア・ドライバーに対して,同事業への参加前と後にアンケートを取り,参加後には聞き取り調査も行いました。聞き取り調査の結果についてはSCATという手法を用いて分析しました。 調査・分析の結果,ボランティア・ドライバーにおける「プロ意識⇔自発性重視」という意識軸を明らかにしました。さらにインセンティブ設計において複数のインセンティブを組み合わせることの重要性を示すことができました。この研究を通じて得られた知見は,地域における公共施策を円滑,効果的に推進するために有効なものであると期待でき,常時サービスを提供し続けるような地域活性化策を設計・推進する際に有用であると考えられます。

 調査・分析の結果,ボランティア・ドライバーにおける「プロ意識⇔自発性重視」という意識軸を明らかにしました。さらにインセンティブ設計において複数のインセンティブを組み合わせることの重要性を示すことができました。この研究を通じて得られた知見は,地域における公共施策を円滑,効果的に推進するために有効なものであると期待でき,常時サービスを提供し続けるような地域活性化策を設計・推進する際に有用であると考えられます。

ドライバーの評価変化[1]
ドライバーの意識要素の分析結果[1]

参考文献

  • 泉谷和昭,コミュニティ公共施策におけるインセンティブシステム活用に関する研究―有償ボランティア・ドライバーによる紀北町「あいのり運送」実証事業をとおして―,三重大学,2021年,博士論文。
  • 紀北町相乗り運送運営協議会,三重県紀北町「あいのり運送」実証事業のご紹介,2019年。

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