社会人・学生対応のサイレッツ育成事業

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

国際環境教育研究センター佐藤 邦夫

 三重大学におけるサイレッツ(SciLets)育成事業は,平成28年度の準備年度を経て,対外的には平成29年度から開始されました。これは,地域の社会人・学生を対象として環境人材を科学的な情報と手法により育成する,科学的地域環境人材(Scientific Local and Environmental “Talented Staff”)育成事業で,文部科学省の支援を受けたプロジェクトです。
 主な目的は,この地域(三重県域)の活性化に責任を有する三重大学が,オンデマンドビデオ講義により社会人と学生の環境教育を行うことにより,地球規模の環境問題に地域から貢献し,それにより地域の持続的発展を目指すものです。
 またサイレッツ育成事業では,持続的開発目標,SDGsも主要な学習内容として教育・普及・啓発を行っています。SDGsはだれ一人取り残さない個人の福祉の視点の積み重ねであり,環境問題は地球,あるいは地域の視点から人類の福祉を考えるということですので,いずれも最終的な目標は,地球レベルから個々人レベルにまでおよぶ持続的な人類の福祉であることに違いはありません。最近では,SDGsの理解と実践を重視するサイレッツ受講者も増えてきました。また,連携パートナーとして登録して頂いている地域の自治体や企業の中にも,SDGsの取り組みに力を入れている組織が増えてきました。三重大学のサイレッツ育成事業は,その活動の一環として,SDGs啓発セミナーなどにも積極的に参加し,地域の活性化に貢献しています。

  • 志摩市のSDGsセミナーにおけるSciLetsの取り組み紹介(R1.07.22)

 このような目的・目標のために,サイレッツ育成事業では「地域環境科学」という環境教育体系を基本とします。地域環境科学は,環境問題を広く「環境問題・環境評価法」,「エネルギー技術」,「環境配慮技術」,「環境教育・ESD持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)の略語。
現代社会の課題を自らの問題として捉え,身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより,それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと。そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動のこと。
・SDGs」,「環境関連法・行政」,「大気・水と食の健康リスク」,「自然環境保護・生物多様性」,「気候変動問題」,「コミュニティ&インバウンド」および「経済・経営,ESG」の10分野に分類し,それぞれの分野に1科目ずつ概論を設け,それらを必修科目とします。また各分野には複数の選択科目を設け,受講生の興味に沿って選択受講して頂きます。必修科目も選択科目も,一科目の講義はそれぞれ90分のビデオ講義と理解度確認テストから構成されており,理解度確認テストによりその理解度を確認すると同時に受講記録を蓄積します。
 このような教育基盤のもと,教育内容の質を保証するため,一定の資格要件を満たしたサイレッツ育成事業の受講者には,「サイレッツ アナリスト」さらには「サイレッツ エキスパート」の認定を行っています。

サイレッツ育成の仕組みと資格の認定
サイレッツ育成の仕組みと資格の認定

 令和元年度末時点で,三重大学学生以外の受講申し込み者数は187名,三重県域29市町を含む連携パートナーは141組織となり,資格認定者はアナリスト60名,エキスパート8名となりました。

  • サイレッツ資格認定証授与式(R1.12.22)

 一方,サイレッツ育成事業の中では,三重大学学生を「近い将来の地域の社会人」であると捉え,次の2つの方法により環境教育を行っています。
 まず第一に,一般の社会人と同様のいわゆる「社会人枠」として,自主的に希望する三重大学の学生を受け入れます。その場合,学生側にとって,サイレッツによるビデオ講義は「課外教育」の場となります。2019年度末から2020年度初めにかけて,このサイレッツ育成事業の「社会人枠」に登録する三重大学学生が急増しました。COVID-19の流行の影響により,環境の資格をオンラインで取得できるというメリットが注目されたものと考えられます。
 次に,三重大学の正規授業を主導する教員の申し出と一定の手続きの下に,三重大学の教育用サーバーに再構築したサイレッツビデオ講義を,当該授業で教材として活用できるようにした「援用枠」を用意しました。その結果,いくつかの正規授業がサイレッツビデオ講義を援用しています。
 このように,サイレッツ育成事業は,「社会人」と「将来の社会人である学生」を対象とした環境およびSDGsのオンライン教育システムとして活用されており,今後はさらにこれら受講者の興味と範囲を広げる形で国際化などを行っていく予定です。もともと三重大学は三大学セミナーなど,国際交流が盛んな大学ですが,協定校であるタイのチェンマイ大学では,工学部の中に三重大学と連携するサイレッツが発足しています。このような,「地域に依って立つ世界の環境先進大学」との連携・協働の輪を広げ,三重県域が地域の中に閉じこもる方向にではなく,むしろ世界と直接つながり,開かれた魅力のある地域となるよう,私たちも活動を広げていきたいと考えています。

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