環境教育教材としての「環境報告書2019Web版のLCA」 

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 12 つくる責任つかう責任

 本学が作成する環境報告書は,これまで環境に関連する授業(例えば,教養教育講座「ISO環境管理学」など)で活用をして,「8.環境関連の取り組みと評価」や「9.マネジメントシステム」の記載データから三重大学の取り組みを学びます。環境報告書をさらに教材利用の範囲を拡大するために,昨年度(2019年度)発行からWeb版の報告書としましたことを踏まえて環境の性能評価を実施しました。
 具体的には,Web版の環境報告書が,2018年度までの冊子にて発行していた報告書と比べ,環境にどのような変化を与えたのかを評価すべく,環境評価の手法として使われるライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)で評価分析をしました。
 ライフサイクルアセスメントとは,製品さらにはサービスの「資源採取から原料生産,製品生産,流通,消費,廃棄・リサイクル」といったライフサイクル全体の環境に与える影響を数値(定量化)して,評価をする手法です。評価した結果は,次回の製品の設計やサービスを考える時に,より環境への影響を低くできるように,環境影響の大きい段階(箇所)を見極めて改善することに活かされます。

 分析には,施設環境チームのメンバーと,環境報告書2019のWeb版を製作受託したデザイン会社(株式会社エスト)が協力のもと,報告書の記述の評価には学内でLCAに造詣が深い教員がクリティカルレビューのチームを編成し報告書作成の作業を行い,令和2年7月に「LCA報告書」をまとめホームページで公表しました。(http://www.gecer.mie-u.ac.jp/news/web2019.html)

  • LCA報告書(全42頁)
  • LCA報告書(全42頁)

結果の解釈

各段階「制作①(原稿段階),制作②(生産段階),Web公開(流通段階),閲覧(使用段階),廃棄(廃棄段階)」では,制作②(生産段階)の影響が83%と大きく,特にコーディング作業が重要であることが分かった。

仮定①)本分析結果では,閲覧期間を8カ月としているが,12カ月とした場合も割合に大きな変更は無い。

仮定②)閲覧数を,調査期間8カ月間のページビュー数(12,641件)を,年間閲覧の10倍(189,615件)として算定をした場合も全体の寄与度が,0.4%から6%となるが閲覧数による影響は小さいものと考える。

閲覧数の変化による影響
閲覧数の変化による影響

仮定③)エネルギー消費量と温室効果ガス排出量に関して,環境報告書2018の冊子版と比較をすると,冊子版よりWeb版の算定結果では地球温暖化への影響は少なくなると考える。

冊子版とWeb版のエネルギー消費量kWh比較
冊子版とWeb版のエネルギー消費量kWh比較

仮定④)仮定③の算定比較に加え,流通段階に,環境報告書2018の冊子の県内と県外への発送データを加え比較をすると,流通段階の気候変動(地球温暖化)への影響は,全体の7.5%となった。結果から,冊子印刷段階の影響が各組織への発送よりも大きいことが分かった。

冊子版とWeb版の特性化モデル・気候変動(kg-CO2e)比較
冊子版とWeb版の特性化モデル・気候変動(kg-CO2e)比較

仮定⑤)仮定④の算定比較に加え,原稿作成,原材料調達段階①流通段階(Web公開)に,(参考)として示した作業室内の照明空調負荷データを加え比較をする。

冊子版とWeb版の特性化モデル・気候変動(kg-CO2e)比較
冊子版とWeb版の特性化モデル・気候変動(kg-CO2e)比較

《結論》

  • 環境報告書2019Web版は,インベントリー分析の結果よりエネルギーの使用割合は,制作②(生産段階)の影響が83%と大きく,特にコーディング作業の影響が大きいことが分かった。
  • 環境報告書2019Web版では,使用維持管理段階(閲覧の数の変動)により影響を与えるが,年間閲覧を10倍(189,615件)に増加した場合を仮定として算定をした場合も,全体のエネルギー使用量に関して寄与度が,0.4%から6%となるが閲覧数による影響は小さいものと考える。
  • 閲覧のシナリオに関して,環境報告書2019Web版では,文字,静止画像のみのWeb構成としているが,今後,「音声データ」と「動画」を含めたWeb構成も考えられ,これらは閲覧時間の増加につながり,使用維持管理段階(閲覧)の影響は大きくなることが予測される。
  • 今回の算定で仮定③で示した通り,環境報告書2018冊子版と比べ,環境報告書2019Web版では,地球温暖化への影響は少なくなると考えることができる。ただし,環境報告書のシステム機能としている「情報を伝える機能」としての効果については今後検証を行うことが必要である。Web版とすることで,環境報告書の閲覧ユーザー数,注目記事をデータとして捉えることができることが冊子版との違う優位点であり,「情報を伝える機能」に特化した改善に結びつけることができると予測する。

参考

  • 使用した規格:JIS Q14040:2010およびISO14040:2006準拠
  • LCA実施の目的
    • 理由:2018年度までは冊子にて作成した環境報告書を,本学が2019年に公表した「ペーパーレス宣言」に従い,環境報告書2019から冊子媒体からWeb媒体へ改編したことに対して評価することで,今後の公表媒体の報告書の改善すべきポイントを抽出する。
    • 意図する用途:環境報告書のWeb媒体による効果を把握する際の基準とする。またLCA結果を積極的に閲覧対象者向けに開示することで,環境に配慮した報告書であることをアピールする。
    • 報告対象者:本学の教職員・学生,他大学およびほか機関の環境報告書作成担当者,読者層として想定する高校生および地域の方々を対象とする。

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