持続可能な社会の構築を下支えする技術
-高機能性光触媒による環境浄化法-

  • 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう

〈工学部〉勝又 英之(准教授)

 エネルギー不足と環境汚染は,現代社会の持続的発展にとって重大な課題です。近年,環境汚染物質浄化の一つの手段として半導体光触媒を用いた汚染物質の分解についての研究が活発に行われており,有機塩素化合物や有色染料など多くの有機汚染物質の分解に関する報告がされています。ここで光触媒とは,光を吸収して触媒作用を示す物質の総称です。光触媒に光が照射されると,通常では困難な化学反応を常温・常圧で進行させることができます。

 それでは,光触媒反応の原理とはどのようなものでしょうか?電気を通す金属のような電気伝導体とは違い,半導体光触媒は,電子が通常存在する価電子帯と電子が自由に動いて電気を伝えることができる伝導帯との間にエネルギー的ギャップ(バンドギャップ)が存在するため(図1),通常では電気を通しません。ところが,このバンドギャップエネルギー以上の光のエネルギーが光触媒に当たると,価電子帯にあった電子(e)は,バンドギャップを飛び越えて伝導帯まで励起することができます。一方,価電子帯ではプラスの電荷を帯びている正孔(h+)が生成します。正孔は酸化力が強く,水中の水酸化物イオン(OH)を酸化し,水酸ラジカル(•OH)が生じます。この水酸ラジカルは強力な酸化力をもちます。伝導帯に励起した電子は,溶存酸素を還元し活性酸素(O2•–)を発生させます。光触媒反応によって生成した活性酸素や水酸ラジカルによって,さまざまな有機汚染物質が分解され,最終的には二酸化炭素や水などの無機化合物へ変換され無害化されます。このように,光触媒反応は固有のバンドギャップと利用される光エネルギーとが密接に関連しています。

【図1】光触媒反応機構
【図1】光触媒反応機構

 光触媒の代表的な材料として,酸化チタンがよく知られています。酸化チタンのバンドギャップは大きく,そのため光エネルギーが高い紫外線しか吸収できません。再生可能エネルギーの一つである太陽光は,紫外線がエネルギーとして約3%程度しか含まれていません。一方で可視光は,約50%含まれています。このような観点から,太陽光の下で広いバンドギャップの半導体光触媒の制限された光吸収を改善し,効率的に太陽光源を使用するために,さまざまな可視光応答光触媒が開発されてきました。

 以上のような背景の中,私たち研究グループは炭素・窒素・酸素から構成される可視光に高活性な高分子光触媒の合成に成功しました(図2)。

【図2】高分子光触媒の化学的構造-従来と本研究との比較-
【図2】高分子光触媒の化学的構造-従来と本研究との比較-

 本研究により得られた光触媒は,自然界に極めて豊富に存在する元素で構成されていることから,資源制約の心配がありません。本研究成果により,次世代の材料開発に大きく貢献できると期待されます。この高分子光触媒は,従来の高分子光触媒の約11倍の活性を示します(図3)。

【図3】光触媒活性の比較
【図3】光触媒活性の比較

 また,有害化学物質の分解・除去に利用するだけでなく,光電極システムの電極材料として利用したり,あるいは適切な光触媒と組み合わせて利用したりすることで,水分解による水素製造や二酸化炭素の還元による燃料・資源の合成などへの応用も可能であると考えられます。その際,有効な光の波長を拡張できたことは(図4),太陽光エネルギー変換効率の観点から,極めて有用な人工光合成システムになると期待できます。

【図4】高分子光触媒が吸収できる波長の比較
【図4】高分子光触媒が吸収できる波長の比較

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