コロナ禍での新しい大学の環境を考える

令和元年9月 三重大学長 最高環境責任者 駒田美弘

 三重大学は,「世界に誇れる環境先進大学・環境の文化の根付く大学」を目指して学生と教職員が連携協力し,オール三重大学の体制でさまざまな取り組み・活動を実施して来ています。しかし,令和2年当初から始まった新型コロナウイルス感染症流行のためにその活動は大きな影響を受けています。コロナ禍での環境活動には,新しい手法の導入や柔軟な発想が必要のように思います。大変な試練であることには変わりはありませんが,新しい環境活動が生み出される機会にもなると捉えたいと思います。

 三重大学は,組織体として,第3期中期目標中期計画の6年間においてエネルギー使用量を平成27年度比で6%削減するという意欲的な達成目標を設定致しました。そして,エネルギー総合管理システムの導入,風力・太陽光の再生可能エネルギーとガスコージェネレーションによる発電,省エネ積立金制度による高効率空調や低損失LED照明などの省エネ施設の整備など,ハード面での省エネ対策を実施してきています。三重大学の各施設では,キャンパス内で発電した電気を使用するとともに余った電気は蓄電し,必要な時,例えば夏の猛暑の時期などに使用するという「スマートキャンパス事業」を展開しており,大学の使用する電気の約40%をキャンパス内での発電で賄っています。そして,エネルギー使用量削減の目標値6%に対し,令和元年度にはすでに9.5%の削減を達成致しました。

 高等教育機関である三重大学は,環境マインドを持った人材の育成,地球環境の保全・改善に資する先端研究の実施など,環境分野の教育・研究においても重要な役割を担っています。学生と教職員が協力し,環境ISO学生委員会を中心に大学キャンパス内における省エネ・節電活動だけでなく,地域の自治体や学校などと協働した環境活動,環境教育も積極的に推進しています。平成28年度からは,地域の環境を保全し,地域に多く賦存する環境価値を利活用して地域の活性化を図ることを目的とした「科学的地域環境人材(SciLets)育成事業」を開始し,すでに多くの企業・自治体の環境担当者,一般社会人,三重大学学生が受講し,アナリストやエキスパートの資格を取得されています。地域環境科学分野の講義,環境(技術)に関する共同研究,異分野・異業種交流を通して,地域で活躍できる優れた環境人材を育成していきたいと思います。また,令和元年度からは英語版ビデオ教材を作成し,マレーシアのトレンガヌ大学との協定締結,タイのチェンマイ大学工学部への技術提供を行うなど,国外においてもこの取組を展開していますし,本事業に関する情報を共有し,支援して頂ける「連携パートナー」にはすでに県内29市町を含む141の組織にご登録を頂いており,社会におけるニーズの高さも感じています。

 さらに,現在では平成27年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載をされている17のSDGs(持続可能な開発目標)を達成するための行動へと,その活動範囲を拡大しつつあります。全ての人が尊厳を持って生きることのできる「誰一人取り残さない(leave no one behind)」永続的な社会・地球環境を構築するための拠点となるため,学内・地域における環境の文化の熟成を図っています。三重大学での学びを通して,未来を担う若者の心に環境マインドが根付くことを期待していますし,環境マインドを身につけた学生には,社会においても三重大学の環境文化を広く発信し,SDGs推進のリーダーとして活躍して頂くことをお願いしたいと思います。

 このように,三重大学は組織体としての省エネ活動,高等教育機関としての環境教育・研究を積極的に実施して来てはいますが,現在のコロナ禍においては多くの学生がオンラインでの教育を余儀なくされており,キャンパス内には学生の姿はまばらです。省エネという面から見ると,キャンパス内でのエネルギー使用量は激減していますが,大学のあるべき姿ではないように思います。それぞれの志を達成するための学問,独創性豊かな研究活動,学生・教職員の元気な話し声がなくなった大学はその魅力が半減してしまいます。「環境」を,人間や生物の周囲にあって,意識や行動の面でそれらと何らかの相互作用を及ぼし合うものと考えれば,このコロナ禍の環境は改善していく必要があります。そして,コロナ禍での,あるいはコロナ禍後の教育・研究環境について考え,新しいキャンパス創りに向かっての行動を開始する必要があります。

 三重大学の自然豊かなキャンパスづくりを進めていく基本となる「キャンパスマスタープラン2018」では,既存のキャンパス資産を最大限活かしつつ,それを現実的・持続的・創造的に拡大再生産する「創造的再生」の戦略を用いています。三重大学キャンパスは,豊かな木々の緑に囲まれ,伊勢湾の波の音や小鳥のさえずりが聞こえ,澄み渡った青空を仰ぎ見る環境が維持・整備されています。そして,この素晴らしい環境の中で,世界に誇れる独自性豊かな教育・研究活動が活発に展開されています。環境に優しい行動が日常的に行われ,キャンパス内に足を一歩踏み入れた瞬間から環境を大切にする文化を感じられるキャンパスづくりを進めています。現代社会は,人工知能,IoT, ビッグデータやロボティクスの急速な発達と普及により,今まで経験したことのないスピードでパラダイムシフトが進んでいます。さらに,コロナ禍が加わった今,環境分野においても挑戦的で革新的な思考と新たな取り組みが一層必要とされているように感じます。三重大学では,自然豊かなキャンパス環境を持続すると共に,先端的な科学技術を取り入れた未来志向のキャンパスへの発展・進化を目指し,コロナ禍を克服した新しいキャンパス創りに挑戦をしていきたいと考えています。

三重大学上浜キャンパス(H29.05.18)

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