オーバーツーリズムでの持続可能な地域メカニズムに関する研究

  • 8 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任つかう責任

〈人文学部〉朝日 幸代(教授)

 日本は,少子高齢化の進展により人口が減少しています。これは15歳から64歳の人口を示す生産年齢人口の減少にもつながり,生産活動に就いている労働力の減少を示しています。また,人口減少は需要を支える消費者が減少することを意味しています。このような経済環境の中で,日本経済が発展するための国内向けの需要を増やすには人口減少という制約があるため,国外(海外)における需要である外需を高めることが必要になります。これを推進する政策として,2006年には観光を重要な日本の政策の柱にすることを示した観光立国推進基本法が成立しました。そして観光立国を実現する施策や目標および計画を策定した観光立国推進基本計画が閣議決定され,観光は成長戦略の1つになっています。私は観光の高度人材育成および観光経済経営研究能力開発の事業にかかわる中で,観光経済研究に取り組むことになりました。

 近年の訪日外国人旅行者数は,世界の国際観光客数の増加率と比較しても大幅に増加しています。2010年から2019年の世界の国際観光客数の平均伸び率は5.1%である一方で訪日外国人旅行者数の平均伸び率は19%となっています。このようになった背景としては,近隣アジア諸国の経済が堅調に推移していることや日本のビザの緩和,訪日外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充などがあります。さらに,低価格の運賃で運航サービスを提供する航空会社であるLCC参入による増便やLCC利用による航空運賃の低下,SNSやブログなどを利用したマーケティング,旅行者が必要な情報へ容易にアクセスできるようになったことなどが挙げられます。

 多くの訪日外国人旅行者が来ることが日本経済の発展に寄与するその一方で,観光業も他の産業と同様に外部不経済(市場で取引されない財(もの)により不利益を被る状況)となる環境問題を抱えています。観光客による電気などのエネルギー資源や水資源の利用,日本国民が負担しているさまざまな公共財の利用,ごみの排出,自然環境の破壊や悪臭・騒音の発生などです。特に,外国人旅行者に人気の観光地では,観光客の増加により交通量が増加し,道路渋滞や公共交通機関の混雑問題があります。これにより,観光地の住民との軋轢が生じる問題も発生しています。これが「オーバーツーリズム」として示される現象です。科学研究費助成事業の研究として,中国,台湾,韓国,香港,アメリカ,タイ,オーストラリア,シンガポールの8ヵ国の訪日外国人旅行者が47都道府県に訪問した際の観光と混雑問題について計量経済分析を行いました。混雑現象による観光地の評判は,今後の訪日外国人旅行者の行動に影響を及ぼすという試算結果が得られました。そのため,混雑現象を軽減する方策と旅行者の地域の偏在を減らすための方策が必要です。持続可能な観光,そして持続可能な経済には,環境保全や外部不経済をなくすことが極めて重要になります。このことに実際取り組んだ地域が大分県の湯布院です。これについては,科学研究費事業の研究メンバーである東洋大学経済学部鈴木孝弘教授との湯布院のオーバーツーリズム問題の調査により考察しました。ここでは湯布院の観光地特性を他の九州の10ヵ所の温泉地と比較・検討し,分析しています。その結果,湯布院では1990年の「潤いのある町づくり条例」を制定して以来,オーバーツーリズムの問題が日本各地で顕在化する前から観光客の許容範囲を制限し,最近ではインバウンドの比率を一定程度に抑えています。これは,観光と地元住民の生活との共存を図るマネージメントを行ってきた結果といえます。ただし,地域外資本の参入によって街の雰囲気が一部地域において徐々に変化してきています。

 2020年年初から始まった新型コロナウイルスの世界的な流行により,世界の国々,さまざまな地域での人の移動が大幅に制限されています。今後は感染防止に十分配慮した社会活動が必要となります。人の移動が制限されることにより観光は極めて大きな影響を受けていますが,観光客が制限されているこの時期に,観光客と住民,観光業者が環境保全に配慮できる観光地づくりを進め,ポストコロナに備えることを提案したいと考えています。

  • いずれもスペイン フリヒリアナ(Frigiliana)(H31.4.28)

フリヒリアナはアンダルシア地方の白い村として有名な観光地である。訪れる時刻によって村の小路の状況は大きく異なっています。

スペイン フリヒリアナ(Frigiliana)(H31.4.28)
※観光客を乗せたバスが到着した時刻の村の風景
  • 京都市内マンション入り口の看板(R2.3.2)
    ※民泊禁止がさまざまな言語で書かれています。

  • 京都市内宿泊施設内注意書き(R2.3.2)
    ※夜の騒音や喫煙の注意がさまざまな言語で書かれています。

由布岳と湯の坪街道の風景(R1.11.22)
由布岳と湯の坪街道の風景(R1.11.22)

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