安濃川を主題とした地域学習の展開

  • 4 質の高い教育をみんなに
  • 6 安全な水とトイレを世界中に
  • 11 住み続けられるまちづくりを

〈教育学部〉荻原 彰(教授)

Ⅰ.始めに

 三重県教育ビジョンでは「地域の自然,文化,人材など,身近な資源を活用した郷土教育を推進します。地域の活力を高める観点を大切にしながら,子どもたちに,郷土を愛する心や地域に貢献する意欲を育みます」と述べている。生まれ育った郷土を愛する心をはぐくむことが教育の重要な目標の一つと考えられていることが分かる。

 本研究室では郷土教育を研究の柱の一つとしており,その一環として附属小学校と連携した津市安濃川を題材とした郷土教育を行っている。本稿ではその一端を紹介したい。

 以下で紹介する郷土教育実践は2018年度に行ったものであり,安濃川の治水にみられる近代治水と伝統治水を学習するものである。

Ⅱ.学習において注目した治水手法とその手法の観察できる地点

 下記の3つの治水手法を取り上げることとし,それぞれの手法が典型的にみられる地点を観察地点として設定した。

1 強固なコンクリート護岸による堤防
 安濃川の中下流ではコンクリート護岸がおおむね整備されているが,特に納所地域では,河道が大きく蛇行しているため強固なコンクリート護岸が設置されている。コンクリート護岸のテトラポッドがおかれ,護岸の洗堀を防いでいる。

2 越流堤
 越流堤は堤防の一部が低くなっており,洪水時にあふれた水が低くなっている場所から遊水地にあふれ出し,下流への流量を減少させる堤防である。安濃川と岩田川を結ぶ三泗川は,安濃川の増水時に安濃川の堤防が低くなっている場所(越流堤)からの水が三泗川に流入し,岩田川へ流下する。三泗川は遊水地と岩田川への放水路を兼ねているのである。この越流堤は藤堂高虎が津の城下町を守るため,洪水が起こった時に安濃川の水が三泗川を経由して岩田川へと流れるようにしたものであり,現在でも機能している。

3 霞堤
 霞堤は,堤防の一部に開口部があり,洪水時に開口部から水が堤内の遊水地に流れ込み,下流への流量を減少させて下流域を守る堤防である。安濃川には何か所か霞堤が存在するが,授業で扱ったのは,四軒町の霞堤である。

Ⅲ.河川教育プログラムの展開

本プログラムは次の流れで行った。なおプログラム評価は紙面の都合で省略し,全体の流れを述べる。

1 安濃川ってどんな川?
 安濃川とその支流の美濃屋川の位置を地図で確認し,安濃川の増水時の動画・画像と平常時の動画・画像を比較し,気づいたことを列挙させた。この活動を通して,平常時は穏やかな安濃川が増水時には水位が上がり,濁流に変化することに気づかせた。

2 安濃川散歩
 安濃川の護岸や潮止めぜき,美濃屋川の水門などの見学を行った。水門では津市の職員の方に実際に操作して頂いた。

  • 津市職員の方の説明

    津市職員の方の説明

3 安濃川地図つくり 
 Google Mapを用いて安濃川散歩のルートと見学地点を全体に示し,各地点の位置を確認した。次いでグループで手作りの地図をつくることによって各地点の位置関係を再確認し,見学中に気づいたことを記入し,安濃川散歩のまとめとした。

4 ハザードマップ
 津市の作成した安濃川と美濃屋川のハザードマップを各班に配布し,浸水深ランクなどの説明を行った。その後,各班で浸水深の大きな場所(河川の氾濫の際に危険な場所)はどのような場所なのかを話し合い,発表した。その結果,
・川のちかく
・川がせまいところ
・合流点
・川にはさまれているところといった意見が出された。これらを教師(本研究室の学生)がまとめ,河川周辺の低地や合流点付近,川幅が狭く水位が上がりやすい場所では氾濫が起きやすいことをまとめとした。

5 先人の工夫と現代の技術
 安濃川の治水手法を,先人の工夫と現代の技術で治水を行っている事例として取り上げた。
 知識構成型ジグソー法を授業の手法として利用した。知識構成型ジグソー法は,授業で構成したい知識をいくつかのまとまりに分け,それぞれのまとまりごとに学習者用資料を用意し,各人がエキスパートになるグループ(エキスパート・グループ)と違う資料を読んだ学習者が集まるグループ(ジグソー・グループ)の組み合わせで理解を深める手法である。

  • パソコン上の資料を学習するグループ

  • 三泗川の資料を学習するグループ

    三泗川の資料を学習するグループ

6 現地見学
 納所(コンクリート護岸),三泗川(越流堤),四軒町(霞堤)のそれぞれの現地見学を行った。

7 安濃川の治水計画
 安濃川全体の治水についての講義を県の河川課の担当者に行って頂いた。

8 3Dプリンターによる堤防模型づくり
 学習の振り返りと学習したことの活用を兼ね,3Dプリンターによる堤防模型づくりを行った。
 次の手順で作成した。

  • 演示 教師が3DCADソフトウェア(XYZmaker 3DKit)を用いて複雑な立体を設計する方法を説明した。
  • 設計 各自が設計する堤防を選び,資料を復習し,押さえるべきポイントを書き出しながら紙上で模型の設計を行った。
  • 3D図形の作成 (2)の図をもとに,iPad miniを用いて3Dデータを上記ソフトウェアを使用して作成した。
  • 模型の作成 作成した3Dデータを3Dプリンターに転送し,模型を出力し,設計通りになっていることを確認した。

 各班で3つの地点の治水手法を模型を使って確認し,学習の振り返りとした。

  • 作成した模型の比較を行う児童

    作成した模型の比較を行う児童

  • 三泗川の資料を学習するグループ

    三泗川の資料を学習するグループ

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