豊かな森を育む土壌生物:線虫(センチュウ)を通して森をみる

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〈生物資源学部〉北上 雄大(助教)

 森に入り,地面の落ち葉をひっくり返すと,ミミズやダンゴムシといった土壌動物が見られます。さらに目を凝らすと,米粒よりも小さな,トビムシやダニが見えるかもしれません。それらよりもさらに小さな,線虫(センチュウ)や微生物は顕微鏡でようやく見ることができます。これら土壌生物は互いに関係なさそうに生活しているように見えますが,実は複雑な「喰う」,「喰われる」の関係,いわゆる「食物網」を構築しています (図1)。土壌中の食物網がうまく機能することで,養分の循環がスムーズになり,地上の動植物が快適に暮らすことができます。

【図1】土壌生物の食物網の概念図。土壌生物どうしの「喰う」,「喰われる」の関係は豊かな森の成立に貢献している。
【図1】土壌生物の食物網の概念図。土壌生物どうしの「喰う」,「喰われる」の関係は
豊かな森の成立に貢献している。

 中でも線虫は,ミミズに似た体長1mm程度の極小な動物ですが,全世界に潜む推定個体数は4.4×1020と莫大で,総重量は3億トンと私たちヒトの総重量に匹敵すると言われています(図2)。土壌食物網において線虫は,さまざまな生物との「喰う」,「喰われる」の関係をもち,主に細菌やカビを摂食し,微生物の数を調整することから物質循環に重要な生物群として認識されています。さらに,線虫は環境変化に鋭敏に応答することから,その群集構造(種類や量)を調べることで土壌汚染や温暖化の影響を評価する指標になると考えられています。そのため,南米の熱帯林から北欧の針葉樹林にいたるまでさまざまな森林の土壌に生息する線虫群集が調べられてきました。このようなアイデアがあるにもかかわらず,日本の森林において土壌線虫が環境変化にどう応答し,食物網に影響を与えるのか不明でした。

【図2】線虫(センチュウ)とヒトの 頭数(人口)と総重量。線虫はヒトに匹敵する総重量を誇る。
【図2】線虫(センチュウ)とヒトの頭数(人口)と総重量。線虫はヒトに匹敵する総重量を誇る。

 そこで,私たちは温暖化が線虫にどう影響を及ぼすかに着目し,三重大学付近の海岸林から土壌を採取して,温度上昇と線虫群集の関係を調べました (図3)。その結果,温度が上がることで,微生物を食べる線虫が増加し,食物網内の「線虫-微生物」間のバランスが崩れることが分かりました。欧州の研究では,温暖化の影響で線虫の種類は減少し,線虫群集がより単純になることが分かり,群集構造の単純化は将来的な土壌食物網の劣化につながると警告しています。このように,線虫は温暖化を始めとするさまざまな環境変動にいち早く応答し,住み場の変化を私たちに知らせてくれます。

【図3】海岸林に生息する土壌線虫の調査。採取した土壌を異なる温度で培養すると,高温ほど微生物を食べる線虫頭数が増加した。
【図3】海岸林に生息する土壌線虫の調査。採取した土壌を異なる温度で培養すると,
高温ほど微生物を食べる線虫頭数が増加した。

 昨年,ブラジルのアマゾン熱帯雨林の破壊面積が9166 km2(東京ドーム約20万個分)と報告され,多くの動植物のすみかが失われました。土壌の生物は小さく認識されにくいですが,地上部の動植物と同様に,その多様性は環境変動によって確実にダメージを受けています。土壌は食料や木材など人類にとって多くの自然の恵みを生み出す基盤であり,そこに成立する森は動植物のすみかにもなります。従って,地上の豊かな生物多様性を育む森は土壌生物の営みの上に成り立っていることを忘れることなく,土壌生物の多様性も同時に守っていく必要があります。

参考文献

  • Geisen et al. 2019. Current Biology 29. R1036–R1044.
  • Kitagami, Y., & Matsuda, Y. 2020. Pedobiologia 78. 150595.
  • Siebert et al. 2020. Oecologia 192. 281¬–294.
  • van den Hoogen et al. 2019. Nature 572. 194–198.

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