地域資源の活用を基盤とする地域企業の役割(地域における共通価値創出)に関する研究

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

〈地域イノベーション学研究科〉矢野 竹男(教授)

 三重大学は地域貢献活動を推進しており,地域企業との共同研究もその一つです。しかし,地域社会の持続的な成長と自律的発展を進めるための共同研究とするには,成果となる技術シーズを前提に,地域社会の課題やその状況も,同時に調査することが重要です。私たちは企業と研究者との連携により,知識・技術・アイデアを集積させ,研究成果を創出し,事業化に導くための仕組みとして,①地域研究支援部門企業ネットワークの構築,②(一般社会法人)奥伊勢バイオサイエンスセンターの設立,③農水省「知」の集積と拠点と活用の場・産学官連携協議会・研究開発プラットホームの設置を行ってきました。また,地域社会の課題をSDGsの観点から考察するために,三重大学地域ECOシステム研究センター(三重大学リサーチセンター)と連携し,長期的な視野に立った社会技術の研究・開発支援体制を整えてきました。本報告では,辻製油株式会社と高知県の土佐あき農協とが連携して行った「柚子」の未利用資源である搾汁後の果皮部を活用した「柚子フレーバーオイル事業」の地域社会への効果に関する調査研究の概要を紹介します1)

 柚子は香料として海外でも高い関心が持たれ,フレーバーオイルとしての需要がますます高まっています。しかし,海外では商業栽培があまりされていないため,原料材料の果皮は国内から調達することになります。辻製油株式会社が工場を設立した高知県は柚子の生産が全国の半分の約9,900t(H26)あり,原料確保に有利な地域です(図1)。辻製油株式会社は,土佐あき農協と連携し,H23年から柚子フレーバーオイルの工業規模での生産体制の構築を開始しました。私たちは,事業所設立による効果を土佐あき農協,辻製油株式会社の経緯指標などをもとに評価しました(表1)。土佐あき農協では,H23年度は,2,536tの搾汁残渣の処理費に3.7億円が掛かるところ,辻製油株式会社へ柚子オイルの製造原料として外皮を309t供給した結果1,545万円(外皮309t, 1t = 50,000円)の売上が得られ,搾汁残渣の処理費用が3.2億円に減少しています。即ち,辻製油株式会社との取り組みによって差し引きで6,026万円の収益が生まれていることになります。このように,柚子フレーバーオイル事業は,縁辺地域と企業に共通価値を創出したという点において有意義ですが,研究としては,企業が未利用天然資源を購入し事業化したことで,生産者の収益向上と当社の新規事業展開に貢献したという事実をまとめただけででしかありません。地域共通価値創出の研究を進めるため,学術的意義の検証と本研究の位置づけ(社会的価値の考察)を行うことが今後の課題となっています。

参考文献

  • 地域資源の活用を基盤とする地域中核企業の役割:高知県安芸地域における「柚子オイル」事業の例.日本地理学会 2017年秋季学術大会 講演要旨集,p 75
〔図1〕柚子の生産量(平成26年度)参考:特産果樹生産出荷調査(農水省)
〔図1〕柚子の生産量(平成26年度)参考:特産果樹生産出荷調査(農水省)

H26年度の柚子収穫量から原料確保に関して考察すると,工場を設置した安芸市がある高知県は柚子の生産が全国の半分の約9,900t(土佐あき農協はその半分),近隣の徳島県,愛媛県を合わせると全国78%を占め,原料確保に有利な地域で今後の事業発展にも十分対応できる。

〔表1〕柚子オイル事業の状況

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