8環境関連の取り組みと評価
三重大学演習林の取り組み
- 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 16 平和と公正をすべての人に
- 17 パートナーシップで目標を達成しよう
〈生物資源学研究科紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター附帯施設演習林〉渕上 佑樹
1.三重大学演習林の植生と生物多様性
三重大学演習林は,三重県のほぼ中央を貫流して伊勢湾に注ぐ一級河川「雲津川」の源流を構成する森林です。江戸時代,藤堂氏が治める津藩の藩有林であったこの区域が明治維新後に国有となり,1949年に三重大学の附属演習林となってからは森林科学に関する研究と学生の森林演習を行うことを目的として,現在に至るまで維持管理されてきました。
総面積457haの演習林内では,紀伊半島三重県中部の森林が保護・保全されており,天然生林と人工林の割合はおよそ6:4(全国の割合と同程度)です。
天然生林は大部分がモミ,ツガなどの針葉樹とケヤキ,トチノキ,ミズナラ,ヒメシャラ,ミズメ,ブナ,カエデなどの落葉広葉樹による針広混交林であり,紀伊半島北部の代表的な森林植生となっています。特に,太平洋型のブナとモミ・ツガで構成される天然生林は学術的に貴重であり,生物多様性を保持した重要な森林として保護対象としています(写真1)。人工林の大部分はスギまたはヒノキの一斉林注1)で,部分的にアカマツ,カラマツ,クヌギの植栽が試みられています。また,一部には1810年植栽の樹齢200年を越えるスギの林分注2)もあります(写真2)。このような環境で多くの動物が生息しており,クマタカ,コノハズク,ヤマネ,ニホンカモシカなど分布のうえから注目される動物の確認が記録されています。このように,多様な樹種によって構成され,豊かな生態系を育み,雲津川源流域の森林として多面的機能を発揮している演習林を保護・保全しながら地域社会や地球環境に貢献するために,近年取り組んでいる事例を紹介します。
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写真1 モミ・ツガの天然生林
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写真2 1810年植栽のスギ人工林
- 皆伐跡地に一斉に植林して造った,単一の樹種の森林。単層林。
- 樹木の種類・樹齢・生育状態などがほぼ一様で,隣接する森林とは明らかに区別がつく,ひとまとまりの森林。
2.林地残材,未利用材のバイオマス利用に向けた取り組み
演習林のある津市美杉町には,丸太の売買を行う原木市場(有限会社美杉木材市場)があり,地域における木材流通の要として長年運営されています(写真3)。この原木市場が地域の中心となって実施する,木質バイオマス発電のための燃料となる丸太を集める「木の駅プロジェクト」に,演習林も2018年度から参加し,丸太を出荷しています。例えば,建築用の丸太としては品質が悪く,出荷のできない丸太(曲がったもの,割れたもの,大きな傷のあるもの)や根株などの,いわゆる未利用材です(写真4)。集められた未利用材は近隣の木質バイオマス発電所に持ち込まれます。
木の駅プロジェクトによって,商品価値がなくこれまで山に放置されていた未利用材が買い取られる仕組みができ,森林を管理する森林所有者や林業家に収益が還元されることで,森林の保全につながっています。また一方では丸太(木材)という再生可能な資源を燃料とした電力が生み出されることで,地球温暖化の防止に役立っています。
演習林からの未利用材の出荷量は2018年度は7.5tでしたが,2019年度は21.3tまで増やすことができました。今後も出荷量を増やしていく予定です。
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写真3 地域にある原木市場の様子
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写真4 出荷される演習林の未利用材
3.人工林における風倒被害木の有効利用の取り組み
演習林には,1810年に植栽されたスギの人工林が存在しており,長期間に渡って定期的に生長量の計測が行われています。樹齢200年を超えるスギの生長量に関するデータは全国的にも貴重であり,この林分は研究対象として大切に保護されていますが,近年の大型化する気象災害によって,毎年数本が枯損し,風倒被害木として伐採しなければならないことが続いています。
演習林では2018年度から,この樹齢200年を超える貴重なスギを加工し演習林オリジナルの木製品として販売するプロジェクトを,三重県内の企業と共同で立ち上げました。演習林には丸太を加工する本格的な加工機械はないため,加工は全て近隣の製材所や工場に依頼しています。生産,加工が三重県内で完結し,木製品の売り上げから生じる経済効果が地域内で循環する仕組みづくりによって,地域への貢献を果たしたいと考えています。
現在,割箸,額縁,フォトフレーム,テーブル,棚板など数多くの製品の試作が完了し,販路開拓に向けた検討を行っています(写真5~8)。
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写真5 額縁
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写真6 フォトフレーム
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写真7 一枚板のテーブル
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写真8 風倒被害木を利用した木材製品