3環境・SDGsコミュニケーション
自治体の生物多様性保全施策への貢献
- 14 海の豊かさを守ろう
- 15 陸の豊かさも守ろう
- 17 パートナーシップで目標を達成しよう
<教育学部>平山 大輔(教授)
三重県には、三重県指定希少野生動植物種の指定制度があり、絶滅の恐れのある動植物種のうち、特に保護する必要がある種としての基準に該当する種が指定されています(現在は32種)。県ではそれぞれの種について生息状況のモニタリングなどを行っており、筆者は県の生物多様性保全アドバイザーを務めていることから、その調査に同行して助言を行うことがあります。
例えば、国指定天然記念物でもある須賀利大池(尾鷲市)(図1)。ここは、いまから3,300年ほど前に海から隔てられることで形成された海跡湖で、湖岸には上記の指定種となっているハマナツメ(クロウメモドキ科)という植物が生育しています(図2)。ハマナツメは海岸近くの湿性地に生育する落葉低木で、かつて須賀利大池には1,000個体を超える日本最大規模の群落がありましたが、シカの食害などの影響を受け、現在は数個体が残るのみとなっており、防護柵の設置や生育状態の調査が継続的に行われています。
希少種の減少要因や保全対策を考える際には、その種の現状を見るだけではなく、その場所に生きる他種や、それらとの相互作用、あるいは、その場所(生育環境)の成り立ちや動態についての情報、つまり生態学的な知見が欠かせません。筆者の研究室では、平成28年頃から須賀利大池の湖岸に森林調査区を設置し、生態学的調査を継続しており、そのような立場からこの場所の希少植物の保全、ひいては生物多様性の保全に向けた取り組みに参画しています。
これまでの調査から、須賀利大池ではハマナツメなどの希少種以外のさまざまな樹種で急速な枯死が進行していることが明らかとなってきています。シカの食害といった単一の要因ではなく、下層植生全体の衰退によるリターの消失、湖の水位の変動、土壌の侵食など、複合的な要因が湖岸の植物に影響をおよぼしている可能性が示唆されつつあります。
このような調査から得られた知見は、三重県の希少種保全だけでなく、尾鷲市の策定した須賀利大池および小池保存活用計画にも反映されており、自治体の生物多様性保全施策に一定の寄与をしています。
参考文献
- 平山 大輔 (2022) 海の跡に残る湖と森 ~尾鷲市須賀利大池の樹木枯死をめぐって~. 三重の林業. 431: 11-12.
- Hirayama D, Ito K, Yamamoto K, Fujii S. (2019) Forest dieback proceeds rapidly around the coastal lake Sugari-oike in Owase City, Japan. Journal of Forest Research 24: 391-395.