三重大学演習林の取り組み

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 15 陸の豊かさも守ろう

<生物資源学研究科紀伊・黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター附帯施設演習林> 
渕上 佑樹(准教授)

1.三重大学演習林の植生と生物多様性

 三重大学演習林は、三重県のほぼ中央を貫流して伊勢湾に注ぐ一級河川 雲出川の源流を構成する森林です。総面積457haの演習林内では、紀伊半島三重県中部の森林植生が保護・保全されており、天然生林と人工林の割合はおよそ6:4(全国の割合と同程度)です。天然生林の大部分がモミ、ツガなどの針葉樹とケヤキ、トチノキ、ミズナラ、ヒメシャラ、ミズメ、ブナ、カエデなどの落葉広葉樹による針広混交林であり、紀伊半島北部の代表的な森林植生となっています。特に、太平洋型のブナとモミ・ツガで構成される天然生林は学術的に貴重であり、生物多様性を保持した重要な森林として保護対象とされています(写真1)。人工林の大部分はスギまたはヒノキの一斉林注1)で、部分的にアカマツ、カラマツ、クヌギの植栽が試みられています。また、一部には1810年植栽の樹齢200年を越えるスギの林分注2)もあります(写真2)。このような環境で多くの動物が生息しており、クマタカ、コノハズク、ヤマネ、ニホンカモシカなどの希少な動物の確認が記録されています。
 このように、多様な樹種によって構成され、豊かな生態系を育み、雲出川源流域の森林として多面的機能を発揮している演習林を保護・保全しながら地域社会や地球環境に貢献するために、近年取り組んでいる事例を紹介します。

  • 写真1 モミ・ツガの天然生林

    写真1 モミ・ツガの天然生林

  • 写真2 1810年植栽のスギ人工林

    写真2 1810年植栽のスギ人工林

注1)皆伐跡地に一斉に植林して造った、単一の樹種の森林。単層林。
注2)樹木の種類・樹齢・生育状態などがほぼ一様で、隣接する森林とは明らかに区別がつく、ひとまとまりの森林。

2.林床状況による土砂動態の変化に関する調査

 戦後に植栽された国内の人工林では、間伐遅れなどの管理不足によって立木の過密化、樹冠の閉塞、林床の下層植生の減少などの状況が見られます。このことから、山地に森林が存在するにもかかわらず、土砂侵食・流出などの問題が起こることが懸念されています。また、近年増加しているシカなどによる食害が下層植生の減衰に影響をおよぼしている可能性もあります(写真3)。演習林では、人工林の斜面に何通りかの対策を施した条件で、林床の被覆状況と降雨による表面流や土砂侵食の発生について、観測研究を行っています(写真4)。
 演習林内のスギ・ヒノキ人工林の林内は見通しがよいことが多いのですが、例えばシカ柵(防除ネット)区を設置すると、柵内外での植生生育状況に大きな差がみられたことから、食害による影響はかなり大きいと推定されています。土砂侵食の観測では、木製の柵の設置による効果や、林床被覆状況の影響から効果的な林内・林床での対策の考え方を検討しています。

  • 写真3 演習林で撮影されたニホンジカ

    写真3 演習林で撮影されたニホンジカ

  • 写真4 スギ林の下層植生。写真中央の採取箱で斜面の表面を移動する土砂や枝葉の量を計測する

    写真4 スギ林の下層植生。写真中央の採取箱で斜面の表面を移動する土砂や枝葉の量を計測する

3.広がる演習林産木材の利用

 演習林には1810年に植栽されたスギの人工林が存在しており、長期間に渡って定期的に生長量の計測が行われています。樹齢200年を超えるスギの生長量に関するデータは全国的にも貴重であり、この林分は研究対象として大切に保護されていますが、近年の大型化する気象災害によって毎年数本が枯損し、風倒被害木として伐採しなければならないことが続いています。
 演習林では平成30年度から、風倒被害木を加工し演習林オリジナルの木製品として販売するプロジェクトを三重県内の企業と共同で立ち上げ、割箸、額縁、フォトフレーム、テーブル、棚板などを開発してきました。平成31年度からは演習林のほかのエリアで生産された間伐材を使った製品もこれに加わっています。
 演習林には丸太を加工する本格的な加工機械はないため、加工は全て近隣の製材所や工場に依頼しています(写真5)。生産、加工が三重県内で完結し、木製品の売り上げから生じる経済効果が地域内で循環する仕組みづくりによって、地域への貢献を果たしたいと考えています。
 令和元年度は、レーザー加工機を使って製作した看板を学内のいくつかのイベントや施設で利用してもらいました。数量はわずかですが、本学における木材の地産地消の取り組みの「看板」として、PRの役割を果たしてくれると期待しています(写真5~9)。

  • 写真5 レーザー加工機での加工の様子(R4.12)

    写真5 レーザー加工機での加工の様子(R4.12)

  • 写真6 生物資源学部100周年記念プレート(R4.9.10)

    写真6 生物資源学部100周年記念プレート(R4.9.10)

  • 写真7 生物資源学部100周年記念
クロマツ植栽地看板(R5.4.13)

    写真7 生物資源学部100周年記念クロマツ植栽地看板(R5.4.13)

  • 写真8 水産実験所に設置された看板(R5.7.27)

    写真8 水産実験所に設置された看板(R5.7.27)

  • 写真9 演習林の看板も演習林内で枯れていたケヤキで新調(R4.12)

    写真9 演習林の看板も演習林内で枯れていたケヤキで新調(R4.12)

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