自治体における環境行政・環境法政策に着目した研究

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 16 平和と公正をすべての人に

<人文学部> 岩﨑 恭彦(教授)

 かつての深刻な公害の解決を国に要求し、あるいは独自の対応をすることで、日本の環境法政策の進展を大きく牽引してきたのは、公害・環境問題の現場に位置し、かつ、被害者に最も近い立場にある自治体でした。そして今日、自動車の排気ガスによる大気汚染や生活排水による水質汚濁、廃棄物の量の増大、そして地球温暖化をはじめとする地球環境問題など、対策が必要な公害・環境問題は多様で複雑なものとなっています。それらの解決のためには、環境への負荷の高い一部の事業者の行動を厳しく取り締まるというのみでは十分ではなく、私たち地域住民の参加と協力、一人ひとりの率先した環境行動が不可欠です。こうしたことから、住民に最も身近な行政として、住民参加のもとに環境行政を推進する自治体の果たす役割は、ますます重要となっています。

 私は、行政法、地方自治法、環境法を専攻していますが、主な研究テーマの一つは環境行政手法論です。環境保全のために、自治体や国は、どういう環境問題に対し、どのような行政手法を用いるべきか、その際に法的に留意する必要のあることは何か、といったことを考えています。伝統的には、公害・環境問題に対しては、本来ならば事業者や個人の自由とされてきた活動の中から、環境や人の健康、財産にとって有害であったり危険であったりする行為を選び出し、国が法律に基づいて権力を用いて規制するという規制的手法が用いられてきました。このような規制的手法は、実際に激甚な公害の克服にかなりの成果を発揮してきたように、確実な効果が見込めることから、今後も環境行政の中心的な手法であり続けるでしょう。しかし、冒頭に述べたように多様化・複雑化する公害・環境問題を前にして、国の法令に基づく規制的手法には、今日では限界も指摘されています。そこで私は、国の法令に基づく規制的手法の不備や機能不全を補うものとして、自治体において講じられている環境保全のための要綱や協定、賦課金といった各種の新たな手法に着目しています。

 本校の読者のみなさんならばご承知のように、三重県は、かつて深刻で激甚な公害を経験しました。他方、こうした経験やそこでの教訓のもと、全国に先駆けた硫黄酸化物(昭和47年)および化学的酸素要求量(COD)(昭和49年)にかかる総量規制の条例に基づく実施や、第一次地方分権改革の成果を活かしたいち早くの産業廃棄物税条例の制定(平成13年)など、国の法令の不備や機能不全を補完するような、主体的で積極的な環境法政策を展開してきたという側面をも有しています。そうした三重県に位置する地域共創大学の一員として、そして法学の研究者・教育者として、私は何をなすべきなのかということを問い続けていきたいと考えています。

  • 2010年8月熊本県水俣市の環境行政を調査

    (H22.8)

  • 2019年9月に三重県伊勢市の河崎地区の景観まちづくりを調査

    (R1.9)

 研究に際して、学生を伴って調査に出向くことがあります。左は平成22年8月に熊本県水俣市の環境行政を、右は令和元年9月に三重県伊勢市の河崎地区の景観まちづくりを調査した際の記録です。

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