6環境・SDGs研究
リサイクル炭素繊維強化複合材料の数値シミュレーション技術の開発
- 12 つくる責任つかう責任
<教育学部・教育学研究科> 中西 康雅(教授)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、高強度・軽量などの特性を活かし、航空機、自動車、風力発電ブレード、建築土木などで採用が拡大し、2035年の世界市場は2020年比約3倍の3兆5000億円と見込まれています。この一方、これまでに自動車や航空機用途で利用されたCFRPが2025年頃に大量の廃材となる時期を迎えるとされており、この問題に対応するためリサイクルシステムの構築が求められています。このようなCFRPのリサイクルシステムの構築には、回収したリサイクル炭素繊維の新たな形態での利用、用途拡大が必要であり、そのための技術開発は炭素繊維の持続可能な生産消費形態を構築するには欠かせないものです。
これに対し現在、CFRPのリサイクルは国内研究機関などで分離・取り出しの技術開発が進められています。しかしながら、取り出した炭素繊維は短繊維としてペレット化されたり、不織布などとして利用されるため、原材料である連続繊維を用いたCFRPと比較して強度や弾性率といった機械的性能が低下するという課題があります。このような課題に対し、リサイクルにより短繊維化された炭素繊維を紡績糸に加工し、繊維配向方向を制御して一方向化することで、高弾性化・高強度化を実現しようとする研究開発が行われています(図1)。ところが、リサイクル炭素繊維の紡績CFRPの材料特性は実験による静的弾性特性の評価しか行われておらず、数値シミュレーションや理論解析などの研究はほとんど行われていないのが現状です。そのため、リサイクル炭素繊維の繊維種の混在、リサイクル工程で生じる繊維表面の損傷による繊維強度や繊維長のバラツキ、そして紡績による紡績糸の繊維構造など、素材の種々の要素がリサイクルCFRP材の材料特性にどのような影響をおよぼすのかは、製造し実験しなければ評価できないという課題があります。
そこで、本研究では、リサイクル炭素繊維の紡績糸およびそのCFRPを対象とした数値シミュレーション技術を開発し、材料設計と特性評価を可能とし、高性能なリサイクル炭素繊維を用いた紡績糸CFRPの材料開発を実現することを目的としました。具体的には、X線CTによりリサイクル炭素繊維紡績糸の内部構造を含めた三次元画像を撮影し、繊維の幾何学的構造をもとに、繊維を個別にモデル化する有限要素解析システムを構築しました。
開発した数値シミュレーション技術の妥当性を検証するため、リサイクル炭素繊維紡績糸の弾性率を実験結果と比較することとしました。撚り角0度を基準として正規化した正規化弾性率と撚り角の関係を調査した結果、紡績糸の撚り角による弾性率の変化の挙動を最大誤差5%以下で精度よくモデル化できていることが確認できました(図2)。また、このモデルをもとに、織物など複雑な繊維強化形態を有するテキスタイルCFRPのモデル化システムも構築しました(図3)。
本システムでは、炭素繊維1本1本を独立した要素としてモデル化することで、リサイクル炭素繊維を紡績糸にしたときに問題となる繊維個々の繊維長や強度のバラツキを考慮したモデル化も可能となりました。これにより、データ駆動型の材料開発が可能となりました。
(a)CF紡績糸の側面
(b)CF紡績糸の側面CT画像
図1 リサイクル炭素繊維紡績糸の観察画像
(a)シミュレーションモデル
(b)解析結果
図3 平織CFRPの数値シミュレーション結果