「人」という環境要因の多様性、多面性を分析的に捉えるための教育―モデルを用いた解釈の実践―

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

<大学院医学系研究科 看護学専攻> 竹内 佐智恵(教授)

 生きる私たちにとって暮らしを支える環境要因のひとつに「人」が存在することを、多くの人は納得するでしょう。健康に未充足部分を抱えた「人」に対して、より安定した状態を目指すことを目標にして支援するのも「人」です。であれば、よりよい生活を目指して水や空気を清浄化させたり経済や産業を発展させたりするのと同じように、環境要因としての「人」の特性の向上や発展は不可欠といえます。この観点において、いずれの人も変化の対象となる必要があります。そのために物事を、多様性を理解しつつ多面的に捉え、状況に見合った対応をすることは重要といえます。
 とはいえ、人の解釈は推論の範疇にあり、解釈する人自身の文化的、社会経済的背景、年齢が影響しています。また解釈する対象に抱く情動的状態によって歪曲されることもあります。こうした限界を克服する手段としてグループディスカッションを実施することがあります。ここでは、個々の参加者の見解を統合することによって多様性や多面性はある程度担保されるかもしれません。しかしながら、分布状況を把握したり、拮抗する内容の存在の有無を分析的に整理したりする内容の深まりに達しないこともあります。そこで提示された情報を何らかの枠組みを用いて整理することが重要となります。
 今回は看護の専門科目の中で試行している方法を示し、今後の展開の見通しと課題を提言したい思います。

事例

事例

 鎮痛剤の増量が誘発となって時々、つじつまの合わない会話や混乱が見られているAさんに対して在宅で対応している家族(B)が困惑している。
 家族(B)の様子:「薬の影響で記憶が混乱しているのだろう」と解釈し、混乱した記憶のストーリーに合わせて会話していこう。否定したり訂正したりせずに様子をみようと冷静に対応する思いでいたが、「ちょっと離れると(約1時間)、混乱する」と感じ「これじゃ何もできない。イライラする」と拘束感によるいら立ちが出現した。

枠組みを用いた分析的解釈

枠組みを用いた分析的解釈

 今回の情報は、Aさんの世話に携わっている家族Bさんから発信されています。そこでBさんの語りをケリーの立方体でひも解くことにしました。
 話を聞きながら一貫性、弁別性、一致性に焦点を当てて詳細に確認したところ、下線部についてBさんが新たに語りだしました。これにより、Bさん自身がAさんへの関り方とAさんが示す反応に関連があるのではないかという新たな解釈を見出しました。
 錯誤や歪曲という、本来、自分自身で探究することは避けがちである内容のあぶり出しを目指して、行為者―観察者効果・基本的帰属錯誤とスキーマの囚われを参考にしてBさんの語りを解釈しました。

 その結果、自身の中で一見納得していたように感じる理由はいずれも自身以外のことから発生していた傾向に気づき、沸き起こっていた怒りや苛立ちの感情が不可避なものだったのだろうかという振り返りに至りました。スキーマの囚われにより、さらに、自身の認識の固執や歪曲という隠ぺいしておきたい感情と向き合うことになりました。

【今後の展開の見通しと課題】

 現在、多数の中範囲理論が示されています。これらを探索し、場面に適したものを選択する策としてフロー形式のツールに整理する必要があります。また、人の生活の営みやシステムが変化し、時には価値観にも変化をもたらしている現状において、より適した理論の作成に貢献する研究が必要です。
 ツールを用いても、解釈や分析には経験や感性が求められます。系統的な教育システムの開発が必要といえます。

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