化学の視点から木材を使う

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を

<大学院生物資源学研究科 資源循環学専攻> 德永 有希(助教)

 「木材を使って作れるモノは、何がありますか?」と聞かれれば、皆さんは何を思い浮かべますか?タンスや机、木造住宅などがイメージしやすいと思います。また、薪や木質ペレットを思い浮かべる人もいるでしょうか。身の回りの多くの製品が木材を原料に作られています。しかし、実は木材は切ったり、削ったりして加工できるだけではありません。
 図1に木材の化学的な組成を示しました。木材のうち約半分はセルロースと呼ばれる多糖から構成されており、残り約1/4はそれぞれヘミセルロース、リグニンという物質からできています。これらを化学的に分離することで、さまざまな化成品を作ることができるのです。例えば、セルロースはアセチル化という化学的な処理をすることで酢酸セルロースというプラスチック素材になります。これはメガネのフレームなどに利用されています。他にも水酸化ナトリウムおよび二硫化炭素という試薬で処理をしたセルロースからはレーヨンやセロハンといった聞きなじみのある素材が作られます。

 このように素材としてさまざまな用途が確立しているセルロースに対して、リグニンは素材化が難しいとされています。図2(A)の化学構造を見るとベンゼン環が数多くつながった分子であり、多様な結合を持っている複雑な物質だということが分かります。この多様な化学構造は樹木の種類や木材の部位によって異なりますし、化学的な処理を行うとさらに化学構造が複雑多様になってしまうので、うまく素材にするのが難しいのです。

 私の研究では、このリグニンに着目して次世代の新規材料を作ることを目指しています。具体的には熱で固まるプラスチック(熱硬化性樹脂)をリグニンから開発することが現在の目標です。ただ、このための化学処理をする過程で、リグニンの分子構造が難しいからと言って目を背けてしまえば、詳細な化学構造がさらに分からなくなっていきます。そこで私は、リグニンの化学構造を単純化したモデル物質(例えばフラスコの中で人工的に合成するリグニン図2(B))を使って、化学処理の中でリグニンにどのような反応が生じているのかを追跡することを心がけています。

 身の回りにたくさん用いられている、石油から合成したプラスチック等は有限な資源です。一方で木材は再生可能な循環型の素材です。木材をはじめとするバイオマス資源を化学的に処理して、既存の石油由来プラスチック製品を置き換えるような素材を開発することが世界的に求められています。豊かな地球環境を後の世代に託すために、持続的かつカーボンニュートラルな素材を作ることが、私たちが取り組まなければいけない課題です。

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