大型藻類からのバイオものづくり

  • 9 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

<生物資源学研究科> 柴田 敏行(准教授)
(三重大学海藻バイオリファイナリー研究センター長)

 海藻(seaweeds、 macroalgae)は、藻類(光合成を行う生物のうち、コケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称)の中で海中に生育する種群を指します。根・茎・葉の区別が無いものが大半であり、含有する光合成色素の違いから、海藻は、緑藻類(green algae)、紅藻類(red algae)、褐藻類(brown algae)の三つに分類されます。ジャイアントケルプの名称で知られるオオウキモ(Macrocystis pyrifera)や日本人にとって身近な食材でもあるマコンブ(Saccharina japonica)、ワカメ(Undaria pinnatifida)など藻体の長さが1mを超えるような大型の藻種は、褐藻類のみに見られます。三重大学海藻バイオリファイナリー研究センターでは、この褐藻類を「大型藻類」と称し、それらを構成する成分を原料とした有用物質の生産、すなわちバイオリファイナリー(再生可能な資源であるバイオマスを原料に燃料や化成品などを生産する技術)にかかわる研究に取り組んでいます。
 大型藻類を構成する成分は、陸上植物と共通な成分と大型藻類のみに含まれる成分に大別することができます。(図1)は、大型藻類(アラメ・カジメ類)の成分分析に関するデータを示しています。

図1 大型藻類を構成する成分

図1 大型藻類を構成する成分

 フロロタンニン類は、陸上植物にはない大型藻類特有のポリフェノールです(図2)。

図2 大型藻類のアラメ・カジメ類に含まれる主なマリンポリフェノール

図2 大型藻類のアラメ・カジメ類に含まれる主なマリンポリフェノール

 三重大学海藻バイオリファイナリー研究センターによる解析で、フロロタンニン類は、抗酸化性(活性酸素種による酸化から身体を守る働き)や抗糖化活性(糖との反応により生じるタンパク質の変性を抑える働き)について、カテキンなど陸上植物由来のポリフェノールを上回る生理機能を持つことが分かりました。本学では、フロロタンニン類について「マリンポリフェノール」の商標(登録第6216128号、登録第6216129号)を取得しています。さらに、製薬会社との共同研究により、マリンポリフェノール含有サプリメントの開発と市販化にも成功しています。
 大型藻類に含まれる多糖類の中で、アルギン酸は、最も多く含まれており、乾燥重量に対して約20~30%、含量の多い藻種で約60%を占めることが分かっています。アルギン酸分解酵素、すなわちアルギン酸リアーゼは、獲得が難しい酵素であるため、これまでアルギン酸は難分解性の多糖類と考えられてきました。三重大学海藻バイオリファイナリー研究センターでは、海洋からアルギン酸を資化することのできるバクテリアを単離し、そのバクテリアからアルギン酸を完全分解可能なアルギン酸リアーゼを発見しました(特許第6954644号)。アルギン酸の完全分解によって得られる単糖(DEH: 4-deoxy-L-erythro-5 hexoseulose uronic acid)(図3)は、遺伝子改変酵母によるバイオエタノール生産、神経変性疾患や認知症の治療薬として利用できる可能性がセンターの研究によって明らかになっており、近い将来、バイオ産業界のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。

図3 アルギン酸から酵素分解によって得られる単糖(DEH)

図3 アルギン酸から酵素分解によって得られる単糖(DEH)

 大型藻類は、陸上植物と比較して約10倍以上のCO₂固定量を持つとされています。従って、大型藻類からのバイオものづくりへの挑戦は、「CO₂の資源への転換」への挑戦とも言えるでしょう。三重大学海藻バイオリファイナリー研究センターは、大型藻類の育種にかかわる研究にも取り組んでおり、今後もこの究極の目標への挑戦を続けていきます。

研究課題がNEDO『先導研究プログラム』に採択されました。

https://www.bio.mie-u.ac.jp/cate/happenings/nedo.html
https://www.nedo.go.jp/content/100952116.pdf

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